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カテゴリ:小説をめぐる冒険
『大聖堂』レイモンド・カーヴァー著
短編の名手として知られるカーヴァーの傑作の 一つ。『Carver's DOZEN』(中公文庫)収録。 村上春樹氏の名訳で楽しめる。 ―――さて、祝祭男さん、たった今あなたは何を考えていましたか? 祝祭男】 む…。そうですね、何を考えていたんでしょうね。 そんな風にいきなり訊かれちゃうと、判らなくなりますよね。 喫茶店とか、差し向かいで誰かと座っているときに、そんなこと訊かれることってよくありますけど、多分何にも考えていないんでしょうね。 ―――自分が何かを考えたり感じたりしてる時間と、 そういうよく判らない今みたいな状態の時間と、どっちが長いんでしょうね? 祝祭男】 さあ、それも判らないですね。 いずれにしても色んなことがあっという間に過ぎ去ってしまいますからね。 毎日のことですけれど。そうそう、それで今思い出したことがあって、 昔大学の授業かなんかを受けているときに、先生がこういうことを言ってたんです。 「よく判らないなって思ってる小説の一節とかが、道ばたで石ころを蹴っ飛ばした瞬間に急に理解できちゃうことがある」という風な。 それでまあそれを訊いたときには、すげえもんだな、って思った訳なんですけれど、多分ボサッとしている時間って、目覚めていながらもそういう思考とか意識の組み替えが着々と進んでいるじゃないかなって思いますよね。 ―――祝祭男さんは、小説の中でこの一行はどういう意味なんだろう? ってよくわからない一節って覚えていますか? 祝祭男】 う~ん、どうでしょう。 たとえば、判らない一節というよりも、ああ、あの小説で言ってたのはこのことなんだな、って日常の実生活と符合してくる感覚をよく与えてくれるのが、 私にとってはレイモンド・カーヴァーの小説なんですよね。 もちろん、ほとんどは逆に、小説の一節を見て、 ああ、こういうことってあるある、と思う訳なんですけれども。 いずれにしても、日常感覚の切り取り方がとても上手いってことになるんだと思います。 で、彼の作品の中に『大聖堂』ってのがありますよね。 ―――ああ、あの盲人が家に訪ねてくるって話ですよね 祝祭男】 そうそう、その盲人は、主人公である「私」の奥さんの友人で、 つれ合いを亡くしたばかり、なんていう設定でした。 それで、この「私」が会う前からずっと盲人のことを邪推して、 甚だ鬱陶しがっているところがすごく面白く書かれていて、 悪い男じゃないんだけれど、奥さんとかもなんだか妙にピリピリと衝突してしまう。それでいて、奥さんの昔の恋愛の話を忌々しげに語ったり、 亡くなった盲人の妻に同情したりなんかするわけですね。 そして盲人の結婚生活を想像する、こんな一節がある。 「二人は結婚し、一緒に暮らし、同じ職場で働き、一つベッドで眠り――もちろんセックスだってやっただろう――それから盲人が彼女を葬らなくてはならなかった(略)それから次に、その奥さんが送った人生の方が気の毒なのかな、という気がした。愛する相手の瞳に自分の姿が映らない女の気持ちって、いったいどんなものだろう」 と、まあこういう俗っぽい想像って、もの凄くよく判るっていうかね。面白いなあって思うし、あとまあ、実際に対面してからの「私」の盲人に対する人物評価も笑える。たとえば、 「ロバート(盲人)という男はなんでもかんでもちょっとずつかじっていた」 こういう風に相手に思われてしまうっていうのも、切ないけど、なんかよく判る。 ―――なるほどねえ。 祝祭男】 で、まあ話を元に戻すと、小説の後半では、「私」と盲人が一緒になって、デパートの紙袋の裏に、大聖堂の絵を描くことになるんですよね。 へえ、すごいなこの展開って思ったんですけれど、最後の一行の一つ手前にある 『しかし自分が何かの内部にいるという感覚がまるでなかった』 という一節だけが、「?」なんですね。 う~ん、これはどういうことなんだろうってね。繋がりがおかしいとかじゃなくって、自分も体験してみないと分かんねえな、こりゃ、って思うんですね。 ―――話を聞いてる限りでは、私もチンプンカンプンですけれど。 祝祭男】 ええ、そうですよね(笑) で、まあ、多分、一番最初の話に戻るんですけれど、 そういう一節がいきなりピコーンと判るような瞬間を待っているんですよね、 ボサッとしながら(笑) ―――ボサッとしてるだけじゃ、駄目なんじゃないですかね(笑) っていうか、『大聖堂』の話というより、ボサッとしている時間を実に回りくどく説明してもらったって感じです(笑) まあ、ということで、今日はこの辺で。 それではまた! 聞き手 祝祭男の恋人 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Mar 20, 2005 10:14:16 PM
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