カテゴリ:本
自分の大切なものを無神経な誰かさんに土足で踏みにじられてしまったら、その時、僕ならどうするだろう…。 小学校に入ったばかりの僕だったら、ブチ切れて、泣きわめいて、いろいろ投げ散らかして暴れていた。 少し学年が進んだ頃には、ブチ切れる代わりに夜、布団の中で小さいウサギのぬいぐるみと話をしながら眠るようになった。ぬいぐるみはいつも、「たいへんだったね。じゃ、いっしょにあそぼ。」と言ってくれた。僕にはそう聞こえていた。 今思うと、あの小さなぬいぐるみは僕に無条件の愛をくれていた。 でも、無条件の愛なんて本当にあるのだろうか。 わが家に赤ちゃんが登場するまで、僕は子どもが可愛いと思うこともなかったし、無条件の愛も無償の愛も、その存在を実感していなかった。 それが、わが子が生まれた途端、そういう気持ちが疑いようもなく僕の中にもあることを知った。 そのわが子が8歳くらいだった頃、近所のお母さま方に容姿をからかわれたことがきっかけで、ご飯も水分もろくに摂らなくなった時期があった。ある日、健康状態に問題があるのではないか、と学校から呼び出され、急遽仕事を休んで病院に連れて行った。お医者さんには「ご心配ですね」と労ってもらったけど、僕はその時、平日の日中にわが子とずっと一緒にいられる幸せを感じていた。誰のせいだとか誰が悪いとか、そんなことはどうでも良くて、この子が元気でも元気じゃなくても、いつも傍にいたいなぁと、そんなことを願っていた。 それから10年くらいが過ぎて、第一志望だった学校の不合格を、歓喜渦巻く合格発表会場で確認したわが子は、「気晴らし」と言ってルミネtheよしもとのライブを観てから帰ってきた。僕たちにライブのことを面白おかしく一所懸命話してくれたあと、我慢できずに悔しくて、泣いた。 たとえこの子に疎んじられる時が来ようとも、ずっとずっと愛を送り続ける、と僕は誓った。 重松清さんの「卒業」は、「まゆみのマーチ」「あおげば尊し」「追伸」そして「卒業」の4つの短編でできている。テレビも音楽も消した部屋の中でページを静かにめくりながら、僕の頭の中には、長く思い出すこともなかった記憶や思いが溢れてきて、ほぼ泣きそうになっていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
June 25, 2021 09:28:15 PM
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