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浜田マハさんの小説集「黒い絵」の帯にはこんな言葉が… ・禁断の書 ・アートの世界の闇にうごめく秘め事とは? ・衝撃の小説集 ・禁じられた遊び、爛れたエロス、閃く殺意…。 ・アートの暗部を炙り出す、禁断の小説集 帯を読んだだけでも怪しさが伝わってくるこの小説集には6篇の短編が綴られていて、その1番目に「深海魚 Secret Sanctuary」が収録されている。 巻末を見ると、「深海魚」の初出は小説現代2008年5月号と記されているから、2006年に作家としてデビューした浜田マハさんの初期の作品、ということになる。 「深海魚」の主人公は、学校でイジメにあって、ほぼ引きこもりになっている女子高生、真央。 年齢を重ねた僕がこの女子高生と重なる部分など何もないはずなのだけど、読み始めてほどなく、どうしようもないくらいに僕の気持ちは真央に入り込んでしまった。 そのあと、おそらく一週間くらい、僕の心はずっと落ち着きを失っていた。 僕自身、それなりに長く人間の群れの中で生きてきて、その群れの中で少なからず嫌な思いもしてきた。だから、小中学生だった頃に経験した嫌な出来事など思い出すこともなくなっていたけれど、「深海魚」を読みながら、子どもの頃の一時期、クラスでイジメのターゲットになっていた記憶が脳みその奥底から引きずり出されてきた。 当たり前だけど、イジメの標的になるというのは、ひどく不快で憂鬱な体験だった。だけど、その時の僕は、親や教師を含めて誰にも被害を伝えようとは思わず、相手への抗議もせず、周りに助けを求めもせず、ただ僕の頭の中に、僕だけしか入れない秘密基地を作っていた。「秘密基地」には、僕にしか見えない"お友達"もいて、その"お友達"はいつでも僕と仲良く遊んでくれた。 「僕の本当の気持ちは僕だけのもの、誰にも教えてあげない。」 そんなことも思いながら、周りに何かを期待することもしなかった。 僕がターゲットになった理由は今も良くわからないけど、雰囲気的に僕はイジメやすい存在だったのかもしれない。 あるいは、反応が薄い僕の態度を見て、あいつらはムキになったのかもしれない。 真央にとって、真央の心の置き場所は「深海」のような場所だった。 「深海」は、忘れたと思っていたけど本当は忘れたつもりになっていただけだった僕の記憶を蘇らせてくれた。 僕の中にあった「秘密基地」のことを、ある意味愛おしいような懐かしいような、そんな気持ちと共に思い出させてくれた。 短くて、だけど強烈に印象的な小説だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 4, 2024 12:00:23 AM
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