テーマ:映画館で観た映画(8563)
カテゴリ:映画
ちょっと映画づいてます。。 仕事帰りに、シネカノン有楽町で観て来ました。
病院のベッドで目を開けたジャン=ドーは、自分が何週間も昏睡状態だった事を知る。 身体がまったく動かず、唯一動かすことができるのは左目だけだという事も。 ジャン=ドミニク・ボビーは雑誌「ELLE」の編集者で、三人の子どもの父親だった。 彼は言語療法士の導きにより、目のまばたきによって意思を伝える事を学ぶ。 やがて彼はそのまばたきで自伝を書き始めた。 その時、彼の記憶と想像力は、動かない体から蝶のように飛び立った ___________________________________
42歳の働き盛りで、突然脳梗塞に倒れ、ロックト・イン・シンドローム「閉じ込め症候群」 ~身体的機能・感覚は、ほぼ全て麻痺した状態になるが、意識は鮮明に保たれている~ に陥った、フランス版「ELLE」の名物編集長、ジャン・ドミニク・ボビーの自伝を基にした映画。
ある日突然、自分の生活の全てが断ち切られ、体の自由を失う。 残されたものは、ただ左目のみ。。 そんな状況に、人の精神は耐えうるのだろうか? 意識が明晰であるという事がむしろ、拷問のような苦痛に感じられるのでは。 けれど、ジャン・ドーは瞬きによってコミュニケーションを取ることを学び、本を著した。 20万回の瞬き。。。 気の遠くなるような行為。
これが日本映画なら、きっとお涙頂戴的な苦労と感動のドラマになりがちだけれど、 この映画は、けっして暗く悲惨な表現は取らない。 逆に、画家である監督の美意識か、画面はどこまでも美しく、 ジャン・ドーの独白もどこかウィットに富んだもので、観客は時々笑わせられさえする。
言語療法士や編集者(何故か皆様、大変美しい女性ばかり)に性的妄想を抱いたり、 過去に経験したであろう、美食や旅行へ馳せる想い。
深い海中に潜る潜水士や、崩れゆく氷河などが、ジャン・ドーの心象風景として 何度か象徴的に現れるのだけれど、絶望でありながら、何処までも美しい。。 歯がゆい状態ながらも、次第に彼は己を見い出してゆく。
瞬きによるコミュニケーションを得た彼の最初の言葉は「死にたい」だったけれど、 彼を訪れる人々・彼を支える人々との交流の後に、淡々と流れるモノローグ。 「僕は生きている。体も動かせず、話す事も出来ないけれど、僕は生きている」 この言葉に、ジンときてしまった。 動けない体に閉じ込められた彼の果てしない孤独と、 人とコミュニケートする事、言葉の持つ力。 希望。
さすがアムールの国?フランスで、妻の介護を受けながら、電話越しに愛人と会話する、 などという場面もあったり、ここら辺が綺麗事だけでない現実感ある世界でありました。 (ま、私からみたら愛人・妻という関係性の方が、非日常ではあるのだが。。)
正直、画面に没頭しつつも、ここまで手厚い介護を受け、周りは美しい女性だらけで、 彼は非常に恵まれた環境にいる。。という思いをどうしても抱いてしまった。 全く動けない体で寝たきりになったら、一週間で床ずれが出来ちゃうでしょ。。 などどいう、リアルな事も頭から離れず・・・
自分の人生は何かを失い続けたものだった、という独白も、 一般人からみたら、別れているとは言え美しい妻と子供、ゴージャスな恋人、 地位も名誉もある仕事に、資産、何もかも手にした、登りつめた人生にしか見えない。
ま、だからこそ、閉じ込められた今の現状が余計に辛い物に思えるのでもあって。
とても印象的だったのは、老いた父の髭を剃ってあげる場面。 温かくて、お洒落で、とても好きな場面。 このお父さんがとっても良い雰囲気で、素敵な俳優さんだった。 電話で息子と話す場面では、胸が痛くなり。。。
そして、ベイルートで4年間人質になっていた友人。 彼の語りも印象深いものがあった。
閉じ込められた状態で、人が人としての尊厳を保つのに必要なのは、 記憶と想像力。 これは誰にも奪えない。
ジャン・ドーも、自由な想像の力で、蝶のように世界に羽ばたいて行く。
ジャン・ドーを演じたマチュー・アマルリックがもの凄く適役で、美食と華やかな仕事にお洒落、 恋に旅行と、人生を謳歌するフランスの伊達男姿も絵になっていたし、 脳梗塞後の左目のみの動きが、真っ直ぐに心に訴えてくる迫力があり、切ない。 力を失って歪んだ口元と、グルグル動き回る彼の左目から、目を離すことが出来なかった。
自由に動ける体を持つ私達は、では自由に飛翔する想像力を持っているのか? どこかの国に爆弾を落とす事の向こうに、人の暮らしがあるという事への想像力を持っているのか? (あ、この映画は、そんな政治的なプロパガンダは皆無。あくまで私の感想です。)
劣悪な収容所生活の中で、小さな花を美しいと思える感性を持った人が、 ナチスドイツ時代を生き延びた。。という話を思い出す。
そして、ドイツ語を学んでいた頃、一番好きだった言葉も。 Ich bin denke、also bin ich. 我思う、故に我あり。
観たばかりで、何となく心もまとまらない感じだけれど、観られて良かった映画。
彼は、フランス版の本が出版されて、数日で息を引き取ったそう。
陳腐な云い方ではあるけれど、彼の人生は本を著し、映画化される事で、 一種永遠なものを残したのだと思う。
本を読んでから観たかったな、と、今更ながら図書館に予約を入れちゃいました。
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