テーマ:丙午生まれの人(85)
カテゴリ:歴史
ここのところ、不安定な天気が続いていた。
僕は基本的にグータラなので、家を出るときに 雨が降ってないと、傘を持ってでない。 根本美緒ちゃんが必要というと、もって出るけど、 最近は職場に置き傘を何本かしているので、やっぱり 出勤時に降ってなかったら持っていかないわけ。 でも、傘を持ってなくて雨に降られるっていうのは辛いもの。 何というか、敗北感みたいなものを感じる。 雨にうたれるっていうのは、なんだか特別だ。 僕がまだ小学校の低学年ぐらいだった頃、同じような 状況があった。 その日は、ちゃんと傘を持っていったんだけど、学校帰りに 上級生のいじめっ子に遭遇。 あんまり腹が立つので、せっかく買ってもらった傘を使って 思いっきり彼らをぶん殴った。 そうしたら、見事に傘はボロボロに。 雨が降りしきる中、ボロボロの傘を持って帰ることになった。 しばらく歩いていると、20代前半ぐらいのお姉さんが僕のところに 近づいてきて、 「僕、一緒に入る?」 と声をかけてくれた。 傘が壊れたことと、いじめられたことと、壊れた傘を親が見て どういうかということを考えながら歩いている時に、差し伸べられた 救いに、どうしていいかわからないまま、僕は号泣してしまった。 事情を知るはずもないお姉さんは、そんな僕を優しく抱きしめてくれて、 何も言わず傘の中に入れてくれた。 一緒に歩いている中で、もちろん何か会話をすることもなく、ただ淡々と 雨の降る道を歩いた。 そして、お姉さんの足が止まった。 「ここ、私の家なの」 お姉さんは傘をもったまま、そう言った。 僕はお姉さんを見上げるだけ。 すると、お姉さんは、 「傘、持ってっていいよ、明日返しといてね」 そう言って大きな傘を僕に手渡した後、家の中に入っていった。 帰宅したら、当然、母親からは傘を壊したことを怒られたが、 身の丈に合っていない傘を母は見ることはなかった。 僕が物置にしまっておいたからだ。 どうしてそんなことをしたのかは今でも分からない。 でも、なんだか、とても大事な傘に思えたのが理由の一つかもしれない。 さて、次の日、集団登校をする学校だったため、傘は持って行けなかった。 急いで帰宅し、物置から傘を取り出して、お姉さんの家に向かった。 その時、初めて経験した、胸のドキドキ感を今でも覚えている。 チャイムを押したら、何の反応もない。 仕方なく、僕は玄関先にその傘を置いて家に帰った。 それ以後、お姉さんとは会う機会はなかった。 雨が降ると、時々あの時のことを思いだす。 大きく見えた赤い傘が玄関先で傾いているところを。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[歴史] カテゴリの最新記事
|
|