カテゴリ:essay
O.Henryの有名な短編にThe Gift of the Magiというのがありますね。貧しく若い夫婦の相手に対するクリスマス・プレゼントのお話です。夫は自分の一番大事なものを売って、それで妻に対するプレゼントを買います。妻は自分の一番美しいものを売って、愛する夫のためのクリスマス・プレゼントを買います。サクリファイスの極致のように周到にO.Henryの筆が描いていきます。クリスマスイブの晩、二人はその相互のプレゼントを交換します、あっと驚くような、愚かさの極みのような、虚しい結果になるのですが、そのことこそが、キリスト降誕を祝う東方の三博士(three magi)たちにもましてよりすばらしい「賢者の贈り物」なのだというのが作者の結論です。ご存知でない方にはこの短編の中身をもらさない方がいいと思うので書きませんが、まあ、あざといと言えばあざとい短編です、しかし今日ふとしたことで一読して、素直に感動している自分を発見して、驚きました。
その貧しさ、若さ、ただ愛するものを思う純粋さ、見通しのなさ、むしろ将来への見通しなどを不純に感じるような「愚かさ」に打たれたのです。妻の次のような言葉に素直に感動したのです。ちょっと気恥ずかしいですが、引用してみます。妻は自分の大切で美しいものは金に換算できるかもしれないが、あなたに対する私の愛は誰にも数えることはできない、というのです。but nobody could ever count my love for you.です。この二人のギフトはバタイユ流の「消尽」なのですが、その極にあって燃え上がる非物質的なギフトの凄さは、この世の経済を超越しています。それが「愛」というものの正体なのです。 こういう地点からずいぶん遠くまで歩いてきたのですが、その分どこかで自分が本当の「バカ」になってしまっている部分も確かにあるのだと思います。ゼロにできないでいる、ゼロ、いやマイナスなのに、それを分厚く飾っている自分というのが見えてきます。作者はこの二人をtwo foolish childrenと呼ぶのですが、そのfoolishこそがもっとも賢いのだと言うのです。「彼らこそ、どこにおいてももっとも賢いものである。彼らこそ賢者(magi)である」というのがこの短編の結語です。 12月になると、この短編を読み返してみたくなるのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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