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詩人たちの島

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April 1, 2006
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カテゴリ:essay
ムハンマドの風刺画問題をどう考えたらよいか、実は悩んでいたのだが、このジジェクの文章を読んで、何か胸のつかえが取れたような感じがした。どういうことか?結論部分を再掲する。
Respect for other's beliefs as the highest value can mean only one of two things: either we treat the other in a patronizing way and avoid hurting him in order not to ruin his illusions, or we adopt the relativist stance of multiple ''regimes of truth,'' disqualifying as violent imposition any clear insistence on truth.

What, however, about submitting Islam -- together with all other religions -- to a respectful, but for that reason no less ruthless, critical analysis? This, and only this, is the way to show a true respect for Muslims: to treat them as serious adults responsible for their beliefs.
これを朝日新聞の訳出で示す。
―― 他者の信仰を尊重する二つの方法がある。相手の幻想を壊さず傷つけないよう保護者の態度を取るか、いかなる真実の主張も無理な決めつけとして複数の「真実の体制」を認める相対主義の立場を採用するか。
 だがもうひとつ、イスラム教を他の宗教と同様、尊敬すべきものとして、だがそれゆえに厳しく真剣に分析対象にすることはできないか。イスラム教徒を、自らの信仰に責任を持つまじめな大人として扱うこと―これこそ、イスラム教徒を真に尊敬していることを示す方法である。――

このためにジジェクが言いたいのは、いや彼が依拠するのはヨーロッパのクリスチャニティではない、もう一つの遺産である。
Atheism is a European legacy worth fighting for, not least because it creates a safe public space for believers.
(無神論はそのために闘う価値のあるヨーロッパの遺産である、とりわけ無神論こそが信仰者のための安全な公的空間を創造するという理由からだけでも。水島訳)

つまり、Atheismから、この問題に向うこと。これ以外のいかなる「幻想」からも、この問題を論じてはならない。なぜなら、ムスリムやクリスチャンの「信仰」に依拠するかぎり、互いのmirror-image(鏡像)を反復するしかない。言い換えればイスラムやキリスト原理主義者たちの互いの懸念と暴力の応酬の対称的な反復に終わるしかない。

 ジジェクの故郷、スロベニアの雑誌Mladinaの話は印象的だ。旧ユーゴスラビアからのムスリムたち、彼らは旧ユーゴでの圧迫から逃れてスロベニアに移民した労働者たちだった。彼らのモスク建設の要望を一貫して支持した一握りのジャーナリズムがMladinaであった。「ところが」、この接続詞は間違っている、朝日の訳では、「はたして」、―ムラディナは、預言者ムハンマドの悪名高き風刺画を載せたスロベニアのわずかな出版物のひとつになった。― ここに示されているのがジジェクの思想である。

 次のパラグラフが大切である。
These weird alliances confront Europe's Muslims with a difficult choice: the only political force that does not reduce them to second-class citizens and allows them the space to express their religious identity are the ''godless'' atheist liberals, while those closest to their religious social practice, their Christian mirror-image, are their greatest political enemies. The paradox is that Muslims' only real allies are not those who first published the caricatures for shock value, but those who, in support of the ideal of freedom of expression, reprinted them.

新聞で省略しているところを付加して訳しておく。

―このねじれた関係は欧州のイスラム教徒を難しい選択に直面させる。イスラム教徒の宗教的・社会的な慣行の理解者(closest)やイスラム教徒のもつクリスチャンの鏡像が彼らの最大の政治的な敵であるのに対して、イスラム教徒を二級市民としておとしめず、彼らの宗教的アイデンティティー表現の空間を許す唯一の政治勢力は、「神なき」無神論リベラルである。
 逆説的なことに、ムスリムの最大の同盟者たちは、価値にショックをあたえるために風刺画を最初に出版した人々ではなく、表現の自由の理想を支持して再掲載した人たちだったということである。――

ここから結論が導かれる。オリエンタリズム的なパトロネージかそれとも無責任で安楽な相対主義者の立場か、この二つだけが、他者の信仰を尊重する方法ではもちろんない。そう見えるのは、ジジェクの皮肉である。この二つの道は従来の行き詰まりの道を示すしかない。だから、

What, however, about submitting Islam -- together with all other religions -- to a respectful, but for that reason no less ruthless, critical analysis? This, and only this, is the way to show a true respect for Muslims: to treat them as serious adults responsible for their beliefs.

この方法は、ドストエフスキー以来、近代が模索してきた''godless'' atheist liberalsの道を深めることに他ならない。ドストエフスキーはモラルの問題として考えただろうが、表現の自由、信仰の自由というのを許す空間を支えるのはいつでも政治的な自由の問題に帰着する。

 ここまで書いてもまだ充分でないような気がするし、いつものように誤解があるかもしれないが、ジジェクの思考の自由さを学ぶことができたのは、ぼくにとっての収穫だったことにかわりはない。

(一万字を超えると一挙に載せることが不可能なため、分けましたが、もとは一つの文章です)






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Last updated  April 1, 2006 10:39:48 PM
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