詩人たちの島

今、聴きながら書いている。何を聴いているでしょうか？金曜日に知り合ったチャランゴ奏者の第一人者、福田大治の素晴らしいCDである。CHRANGO PEREGRINO（チャランゴ巡礼）と題された全13曲が収録されている。このCDは福田自身から金曜日にサイン入りで購入したもの。
このすばらしい奏者を紹介してくれて、しかも短い時間であったがその生演奏を聴く機会を作ってくれたのは、私の若い同僚で、彼は福田とは大学時代以来の知友であるという。南米ボリビアに８年居住して、この楽器の習得に努め、先ごろ帰国した福田は大学でスペイン語の講師をしながら、このハードな楽器の演奏と普及に努めている。
金曜日、三名で飲んだのだが、意気投合して、ひさしぶりに楽しい思いをした。今日、このCDの解説（スペイン語と日本語の両方で福田氏が書いている）を読みながら、あらためて福田氏の温かい人柄とその南米によせる情熱の厚さを思い返している。

今聴いているのは、なかでも好きになったもので、しかもこれは福田大治の作詞作曲である。邦題は「チェ・ゲバラに捧げるカルーヨ」というもの。カルーヨとはボリビア中部盆地特有のリズム形式のことで、チャランゴの曲にはこのリズム形式のものが多い。この曲についての福田の解説を引用してみる。
――　このカルーヨは2004年の年始にバリェグランデ地方を一人旅した時の鮮明な記憶にもとづいて作られたものです。バリェグランデはサンタクルスとスクレのちょうど中間に位置する山深い地方ですが、特にアルゼンチン生まれで後にフィデル・カストロとともにキューバ革命（1959年）の英雄となったエルネスト・チェ・ゲバラ（1928－1967年）がボリビアでのゲリラ活動中に、米CIAの支援を受けたボリビア政府軍に捕えられ処刑された場所として有名です。この曲ではチェが私たちに遺していったあまりにも悲しい、しかし同時に意味深いその最後の「足跡」を表現しようと試みました。（なお原語タイトルで歌詞中にもある「コマンダンテ」とは司令官（もちろんゲリラの）の意で、ゲバラ本人を指す時によく使われる言葉です。）――

福田の詩とその彼による日本語訳も引用しておこう。

Entre el verduzco paisaje,
resuena tu miticia voz,
construyendo pueblo nuevo,
que junto a ti estoy buscando.

Saltando distancias ocultas,
camino a la revolucion.
Huellas de amor, comandante,
dejan tu esencia en la historia.

Tu grito de liberacion.
renace contra la injusticia.
Tierra valluna, tu alma,
hasta siempre en la victoria.
En la Higuera, tu alma,
hasta siempre, Che Guevara.

深緑の情景のあいだに
もはや神話となった声が響きわたる
新たなる世界の創造を夢見て
それはあなたと共に私が探し続けているもの

隠れた時空を越えて
革命への道を歩みつつ
コマンダンテ、あなたが遺していった人類愛あふれる足跡は
歴史の中にあなたの本質として刻みこまれている

あなたが発した解放の雄叫び
それは今日でもあらゆる不正義に対してよみがえる
谷あいの地はあなたの魂そのもの
永遠の勝利の時まで
イゲラ村であなたの魂は生き続けるであろう
チェ・ゲバラよ、永遠に

注　イゲラ村―チェが処刑された村、バリェグランデの町より車で３時間。

ウクレレやマンドリンに似ている、もちろんギターに似てもいる楽器、チャランゴの音色の魔力はどこから生まれるのだろうか。ボリビアの緑野やアンデスの澄み渡った高地の生活に根ざしたものであることは確かだろうが、今はこの楽器に耳を傾けているだけでいい。


コマンダンテはまだ死にきってはいない。「新たな世界の創造」を夢見る魂たちが存在するかぎりは。