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詩人たちの島

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November 18, 2006
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カテゴリ:書評
  アマゾンで先日頼んでいた『片陰の町』(吉住侑子・作品社)がもう届いた。この短編集を今日は一気に読んだ。練達の作品である。その措辞と描写は揺るぎなく、しかも写実を越えて、ある妖しさを結晶させる。でも、いやらしくはない。その中身は年寄りたちの話である、ぼくは読んでいて、元気付けられる気さえした。明るさとユーモアが、年寄りたちの暗さと不如意をはるかに越えて輝くのである。「強さ」を老齢の文学に加ええた、稀有な文学であると思う。深沢七郎などの系譜につながる女流だと思う。

 落ち着かない日々が続いたが、ここらで覚悟を決めて、というような思い...。12月になると、またいろんなことで忙しくなるから、今やっておかなければと思うけど、昔からそう計画してできたためしがないから、ウーンとうなるしかない。しかし、吉住さんの小説にある、「光」のようなもの。公園で一対の男女が「ゼスチュアたっぷりに戯れている」。それを通りの向こうの喫茶店から見ている彼女は、そのあたりをはばからぬ若さに、憎しみを感じる。しかし、それはちがうのだ。この二人は手話を交わしているのだった。

―― 質素な身なりや、みだらとも見える激しい手指の動きに、先刻は感じたわずかな憎しみが消えると同時に、自分の狭量を恥じる思いが湧いて、彼女は拳で額をたたいた。
 二人のほかには公園に人影はない。熱いコーヒーでもサービスしようかという考えが湧いたが、今の二人にとって公園はかけがえのない楽園、誰にも邪魔されたくない、放っておいてほしい空間であり、もっと高い、どこか見えないところから彼らを見守る慈愛の光があるような気がして、声をかけるのを思いとどまった。
 人は誰にも、そんな明るい光が射すひとときがあるのだ。その光に包まれて素直にはばたく人がある一方で、鈍くてその時に気づかなかったり、傲慢に見過ごしてしまったりする者もある。あるいはわざと暗い方へ歩いてしまう者もないわけではないだろう。――「公園に近い場所」より

 この小説の中年の女主人公が幻視する「慈愛の光」、それについての様々な思念は抜きにして、たしかにこういう光を、それが「あるような気が」するという思いだけは、忘れてはいけない、忘れてはいない。






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Last updated  November 18, 2006 10:41:05 PM
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