カテゴリ:書評
千石英世さんから『小島信夫 暗示の文学、鼓舞する寓話』(彩流社)を頂いた。千石さんは1983年「ファルスの複層―小島信夫論」で第26回群像新人賞(評論部門)を受賞して以来、小島作品の最高の批評家であると、私は思っている。小島信夫は今年の10月26日に91歳でなくなった。私はあまり熱心な読者ではなかったが、その後期作品の「すごさ」にはうちのめされたといってよいほどの、しかし、内実は複雑で不可解な「感動」なのだが、そういう奇妙な思いをしばしば味わった。小島信夫が亡くなって、その追悼文で印象に残ったものは、朝日に掲載された、大庭みな子のものや、追悼文ではないが、文芸時評の末尾にかすめるように言及した加藤典洋の文句「いくら長くても長すぎるということはない」(正確ではないが)などだった。千石さんの文章が絶対どこかの雑誌に出るはずだと思ったが、なかなか出ない。今年はアメリカでサバティカルらしい、そういうことがわかったのは福間さんから聞いたからだ。そして奇跡的に帰国しているときに、小島の死に出遭ったということ(これは正確ではないかもしれないが、そう私は思っている)。これも彼と小島文学の因縁の深さを感じさせるエピソードだ。「文学界」の12月号に追悼が載っていた。私はそれを町田の三省堂で立ち読みし、千石さんの小島文学への理解の深さと、その理解への私なりの親近感を浅からず抱いた。
この本は旧版『小島信夫―ファルスの複層』(小沢書店 1988年)の再版(「文学界」の追悼文も掲載されている)という体裁である。小島信夫の文学がここからこそ幾層にも「増殖」し「再読」されるだろうという思いを禁じえない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
December 16, 2006 10:54:01 PM
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