カテゴリ:essay
ハイネの1844年発表の詩。
暗い眼に涙なく かれらは機(はた)に向って歯をむき出す。 老いたドイツよ、俺たちが織るのはおまえの経帷子(きょうかたびら) 三重(みえ)の呪いを織りこんでやる― 織る、俺たちは織る! ひとつの呪いは神に、 飢えと寒さに責められて祈りをささげた神に。 望みをかけて俺たちは待ちに待ったが さんざんからかったあげくあいつはあざむいた― 織る、俺たちは織る! ひとつの呪いは王に、邦々(くにぐに)をたばねる王に。 この苦しみを知りながら心和らげもせず さいごの小銭まで絞りとり 俺たちを犬のように射ち殺させる王に― 織る、俺たちは織る! ひとつの呪いは腹黒い祖国に。 薄汚い恥ばかりがはびこり 時いたらぬうちに花は手折(たお)られ 腐敗が蛆をふとらせる国― 織る、俺たちは織る! 杼(ひ)は飛び、機(はた)はとどろき 俺たちは日に夜をついで織りつづける― 老いたドイツよ、織るのはおまえの経帷子 三重の呪いを織りこんでやる、 織る、俺たちは織る! 「ドイツ名詩選」檜山哲彦訳 岩波文庫より 平川さんのコメントなどに刺激されて、ハイネの詩を読んでみた。「ローレライ」については平川さんの直接の論などがあると思う。面白いなあと思ったのが上記の詩である。これは解説によると、1844年にシレジア(シュレージェン、今はポーランド)地方で3000人規模の職工たちの抗議運動、これは劣悪な生活条件に抗議してのものだが、その蜂起があり、機械などを打ち壊した。プロイセン軍が出動して発砲、鎮圧されたということだ。この事件はドイツ「最初の労働者暴動」ということらしいが、これに取材したものである。なお、G.ハウプトマンの戯曲『職工』1892もこの事件を扱った文学作品として有名とのことである。 「三重の呪い」は1813年のプロイセンが対ナポレオン解放戦争のときに掲げた愛国的スローガン「神とともに国王と祖国のために」を引っ掛けたものである。ハイネはこれらを一つずつ罵倒してゆく、そこが面白かった。 「織るのはおまえの経帷子」、痛烈な批判である。 ハイネはパリに移住か亡命かしらないが、そこにいる。そのときの詩だろう。祖国ドイツに対するアンヴィヴァレンツな思いに満ちた「夜の思い」という詩もすてきだが、この詩はその直接的な怒りの感情、欺瞞にみちた「老いたドイツ」へのそれが、まっすぐに伝わってくる。そういう意味で、疲れた体と心に、いくばかのエネルギーをも与えてくれた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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