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詩人たちの島

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October 18, 2007
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カテゴリ:essay
3年の古典の演習。今日は初唐の詩人で、「初唐の華美な詩風を一変させ、李白・杜甫の先駆となった詩人」(前野直彬・岩波文庫・唐詩選下)と言われる、陳子昂の面白い逸話の載った問題を読んだ。

陳子昂がまだ売れない詩人であったころの話だ。彼は長安の町で、胡琴が百万といわれる値段で売り出されている店に出向くと、それを即座に購入した。金持連中も連日つめかけていたのだが、果たしてこの胡琴がこんなに高い価値があるかどうか測り兼ねていたのである。

みんなは驚いて、陳子昂に問う。「何用之」なんぞこれを用ふる、どうしてこれが必要なのか、というわけです。陳は「余はこの楽を善くす」と答える。そこで物好きな男が、「可得一聞乎」と、書き下せば「一聞を得べきか」とたずねます。陳はOK、自分の家の住所も教え、あなたちみんなを招待します、いやあなたたちの友人で著名な人々、そういう人々も是非連れてきてください、と。

翌日、百人余りの都の名士たちが陳の邸宅に集結した。山海の珍味でご馳走する。宴席の盛り上がったところで、陳は件の胡琴を抱え弾くかと思いきや、それを叩き割る。こんなものは賎しいものの仕事、蜀人(ショクヒト)である私の本業は詩人である。詩文百巻を従者に担がせ、それをすべての参会者に配りながら言うには、上京していく年、都を奔走するも、わが詩業はあがらず、塵土のなかにろくろくとして埋もれるばかり、…どうぞこれを読んでください。

一日の内に彼の名声は輝くものになった、というエピソードである。

これがいい話かどうかはわからないが、この用意周到のパフォーマンスは褒めていいだろう。博打を彼はうったのだが、それが当たったわけだ。しかし、その博打も、彼の詩作が凡作であったなら、なにをかいわんや、ということになる。

金天方粛殺(金天 まさに粛殺)
白露始専征(白露 始めて専征す)
王師非楽戦(王師は戦いを楽しむに非ず)
之子慎佳兵(この子 兵を佳くするを慎め)
…(以下省略)

これは五律の作品で、戦いにゆく友人の送別である。いたずらに、功名なぞけちなことを求めるな、というのが全体のテーマである。先の逸話とは矛盾するようなところが、詩と逸話の違いでもある。注釈によれば、「之子」とは呼びかけのことばで、「詩経」にしばしば用いられるとある、この子 と訓む。「佳兵」は「老子」に「それ佳兵は不祥の器なり」とあり、このんで兵を動かしたがるという意味があるという。まさに「不祥の器」である。「王師」は天子の軍隊、正義の軍の意味。アメリカやその他、ミャンマーも含めて、「軍」好きの現在の政府に聞かせたいところ、もちろん陳子昂先生の知るよしもない現在の「中国」のそれにも。

金天方粛殺とは「今しも秋、万物の枯れはてる季節」という意味である。こういう激烈な詩句に出会うと、いや激烈ではなく、漢詩においては普通の言いまわしであろうが、私はちょっと背すじを伸ばしたくなった。戦いのときが始まったというわけではないが。





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Last updated  October 18, 2007 09:59:56 PM
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