カテゴリ:movie
時間休を今、小刻みに取っている、残しても来年はやめるのだから無駄だ、全部とってしまえ、という気概で、取っているのだが、今日も一時間の休暇を取って帰る。衛星のスターチャンネル(三月一杯までは千円ちょっとで見られるというので、昨年末から契約したのだが)で、”Brokeback Mountain”をやっていた。途中からだったが、その映像の美しさ(一つ一つがワイエスの絵のようだった)と、それを背景に展開される二十年にわたるカウ・ボーイ二人の同性愛の、これも背景に劣らぬ美しさに引き込まれてしまい、加齢とともにゆるくなった涙腺をしめることができなかったのである。
女房も参加して、主人公の一人が、この一月に死んだという記事を読んだという。イニス役を演じたHeath Ledgerのことで、今年の1月22日に28歳で亡くなった。処方薬の過剰摂取が原因だということらしい。ちょっと調べたら、オーストラリアはパース出身(パースには私の教え子が結婚して住んでいるのだが、彼女は元気だろうか)ということだった。この映画は彼の名演で成り立っているようなものだが、かれの英語はなんというか、西部のカウボーイを彷彿させるもので、私はまずこれに引き込まれたのである。こんな無骨な男が繊細きわまる「愛」を男相手に演じる。 でも、この映画の基本にあるのは、アメリカそのものである。少なくとも私の理解する最高のアメリカである。心情のあり方、出し方、その受け止め方をふくめて。自己破壊の衝動の強さ、愛しあうことが、はるかな自然(Brokeback Mountain)と深くつながり、その背後には巨大な「神」がいる。彼らの愛はもちろん、この世では成就するわけはないが、しかし、死んでしまった相手の男の面影を絶対に忘れることなく、イニスは荒涼とした生を決然として生きなければならない。それが彼の定めである。 愛しあう男たち二人が、妻もあり子ももうけているという設定がおもしろい。メロドラマ風に「不倫」を、男同士にやらせているといえば身も蓋も無い話になるが、そういう仕組みも、必然のように感じられるのが、この美しく厳しい山脈をバックにして語られる物語にはあるとしかいいようがない。 もう少し丁寧にこの映画を観て、私の「アメリカ」像を作ってみたいものだと思った。この映画の監督は、中国系のアン・リーである。行き届いた演出、鋭さと優しさをかねたシーンの連続。そう言えば、06年度のアカデミー賞の「作品賞」を逃したとき、彼が「同性愛」に対する偏見のせいだとコメントしたことを思い出した。 しかし、私は、この映画はゲイのカウ・ボーイの物語をこえて、もちろんその美しさを否定するのではない、彼らの理想郷であるワイオミングの透明な空にまで届いていると思ったのである。(こういう出遭いを作ってくれた、休暇を奇貨とする。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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