カテゴリ:漫画
私が3本の指に数える短編の名手ヤマシタトモコさん、先の日記でも触れた作品が表題となった、待望のダリアコミックスです。 とあるカフェに偶然居合わせた3組の客…恋人未満の趣味友の男女、友人同士の男男、待ち合わせをすっぽかされ携帯で会話中の女…友人同士の客の片割れが落とした爆弾を発端に、微妙な距離感の男性バイト2人を狂言回しにして描かれる群像劇の表題作ほか、暗くて偏屈なバイトの同僚となぜか馬の合う、人当たりが良くて八方美人の男…気持のベクトルの不思議を描いた「ラ・カンパネラ」、酔った勢いでのキスが、世界を壊した…元に戻れないことは分かっているのに、引導を渡されるのも怖いゲーム好きの男が韜晦する様に切なく共感する「こいのじゅもんは」、学生時代に抱いた淡い恋心を、この上なく残酷な言葉で無残なまでに引き裂いた初恋の男との偶然の再会に心掻き毟られる「サタデー、ボーイ、フェノミナン」、近隣に気がふれていると噂される、別れた恋人に囚われたままのゲイの男と少女との不可思議な交流を描いた「魔法使いの弟子」、もの食べるところってえろいよな…男がゲイの友人と共にした日々の食卓と絶妙な空気が哀しくも愛おしい「cu,clau,come 食・喰・噛」、毎日多くの人間を迎え送りだす京急線の車掌である主人公が、日々垣間見るドラマの中に自ら地元に捨ててきた過去とすれ違うさまに心がシンとする「ワンス アポン ア タイム イン トーキョー」の6作を収録。 長いもので32ページ、シリーズ連作なしの紛う事なき短編集で、描かれているのが「恋の実る瞬間、終わる瞬間」ということで作中ラブ度こそ少ないですが、どの作品も物語の背景をしっかりと感じ取れ、かつ彼らの物語の中で最もドラマティックな部分を凝縮して取り出したのであろう濃密さです。 コマ一つに表わされる表情や雰囲気は勿論ですが、やはり秀逸なのが言葉の選び方。作中人物の言を借りると、「あれはまー おまえのセリフ勝ちだろ」というところですか。 ラブを求める方にはお勧めしにくいですが、でも満遍なく皆さんに読んで欲しい一冊です。 全作甲乙つけがたしですが、個人的には表題作と「魔法使いの弟子」「cu,clau,come 食・喰・噛」がお気に入り。単行本の中でもラブから遠い順3作という感じですが。 「こいのじゅもんは」ときて9文字の呪文が浮かんで今時の若者が知ってるの?と思った方、私も含め多分一定年齢以上の方でしょうが正解です(笑)この人のこの新しいんだか古いんだか分らない感覚がニクいです(笑) 書き下ろしは1ページ漫画が4作、場合によっては更に特典で2コマ漫画のペーパーは付いてくるかもです。 そしてやはりここは特筆しとくべきでしょう表題作は雑誌の切り抜きを両手でも足りないくらい読み返してますが、単行本化に際してさらに読み返しても尚面白いですね。あまりの完成度の高さに、もうこの先シリーズ化だけは絶対しないで!!と思うのですが、小ネタ3本見て、純喫茶髭マスターの姿だけはみたい気がしてきてしまったのは人間としてしょうがないかも… BLスキーとしては褒め言葉として「BL的でない」旨の言葉は使いたくないですが、表紙に複数人物が出ているのはともかく一番大きいのが女性2人っつーのもある意味画期的だよね… お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.08.03 00:09:40
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