A New Era of Responsibility-本編
これを書くにあたり、もう一度オバマ氏の就任演説を聴いてみました。やはり、僕の心を捉えたのは昨日も引用した部分であり、それに先立ち「労働と誠実さ、勇気、フェアプレー、忍耐、好奇心、忠誠心や愛国心」という「古くから言われていること」の重要性を強調しているのが印象的でした。Our challenges may be new. The instruments with which we meet them may be new. But those values upon which our success depends - hard work and honesty, courage and fair play, tolerance and curiosity, loyalty and patriotism - these things are old. These things are true. They have been the quiet force of progress throughout our history. What is demanded then is a return to these truths. What is required of us now is a new era of responsibility - a recognition, on the part of every American, that we have duties to ourselves, our nation, and the world, duties that we do not grudgingly accept but rather seize gladly, firm in the knowledge that there is nothing so satisfying to the spirit, so defining of our character, than giving our all to a difficult task.我々の試練は新しいのかもしれない。それに立ち向かうための道具も、新しいかもしれない。我々が成功するかどうかは、労働と誠実さ、勇気、フェアプレー、忍耐、好奇心、忠誠心や愛国心にかかっている。古くから言われていることだ。だが、真実だ。それは歴史を進歩させた静かな力だった。今求められているのは、こうした真理への回帰だ。責任を果たすべき新たな時代だ。我々米国人一人ひとりが、自分自身や国家や世界に義務を負っていることを認識し、こうした義務を嫌々ではなく、喜んで受け入れることだ。私たちにとって、困難な仕事に全力で立ち向かうことほど、自らの性格を定義し、精神をみたすものはない。バラク・オバマという人物、正確にはアフリカ系米国人の両親から生れた訳ではなく、ケニア人留学生の父親と、白人の米国女性との間に生れた人です。幼くして両親が離婚したため、オバマ氏は母方の白人家庭で育ち、インドネシアで一時期暮した後、彼はハワイで私立の小中高一貫校にて学び、米国東部の大学を経て、最終的にはハーバード大学のロー・スクール(法科大学院)を卒業しています。そして、弁護士を経て政治家になったエリートでもあるのです。こう考えると、彼は恵まれた人物のようにも思うのですが、その彼にも人知れぬ苦労があり、それをバネに努力を重ねて来たのだ、ということを感じさせたのが昨日も引用した以下の部分です。This is the meaning of our liberty and our creed - why men and women and children of every race and every faith can join in celebration across this magnificent mall, and why a man whose father less than sixty years ago might not have been served at a local restaurant can now stand before you to take a most sacred oath.なぜ男性も女性も子供たちも、どのような人種、宗教の人々も、こうして就任式に集まることができるのか。なぜ男性も女性も子供たちも、どのような人種、宗教の人々も、こうして就任式に集まることができるのか。なぜ約60年前なら地元のレストランで給仕されなかった可能性のある男の息子が、こうして皆さんの前で宣誓式に臨むことができるのか。これこそが、我々の自由、我々の信条の意味なのだ。オバマ氏の聡明な人柄からは、差別的な扱いを受け、悲しく悔しい思いをしたことなど、およそ感じさせない雰囲気がありますが、「約60年前なら地元のレストランで給仕されなかった可能性のある男の息子」という言葉の中に、彼のハングリーな一面と、それに基づく強さを感じずにはいられませんでした。常に陽の当る場所にいた人が、「「労働と誠実さ、勇気、フェアプレー、忍耐、好奇心、忠誠心や愛国心」と幾ら訴えたところで、どれだけ聴衆の心を捉えるでしょうか。彼の前には全米から集まった200万人の人々がいたのです。氷点下の屋外で、人種を超え、老いも若きも、そして男性も女性も、多くの人々がオバマ氏の発する一言一句に食い入り、喝采を浴びせたのでした。オバマ氏とJFKは共通点が多いのですが、初の非ワスプ大統領(注:ワスプとは White Anglo-Saxon Protestant の頭文字をとった略語で、米国での白人のエリート支配層を指す語として造られ、当初は彼らと主に競争関係にあったアイリッシュカトリックにより使われていた)としてJFKが選出されたのが1960年であり、その48年後にアフリカ系大統領が誕生したことに、アメリカという国のダイナミックな底力と、社会の急速な進歩を感じずにはいられません。オバマ大統領の誕生を総括すると、「大統領として相応しい人物が、人種や皮膚の色を超えて、当然のこととして選出される時代が到来した」ということではないでしょうか。日本から、この就任演説をリアルタイムで見守った僕にとって、一番印象に残ったことは、厳寒の屋外で他の人達が分厚いコートで身を固める中、オバマ新大統領は唯一人スーツ姿で長時間寒さに耐えていたことです。それは、ある意味世界で最も責任ある、そして孤独な職務に就く人物が、無言の内に伝えて来た決意と、強固な意志を証明するメッセージだったのでしょう。