此処暫く5mm以下の小昆虫が続いていたが、今日は久しぶりに大きな虫を紹介する。サトキマダラヒカゲ(Neope goschkevitschii)、開張5~6cm、やや大型のジャノメチョウの仲間である。この専ら単子葉植物を食草とし、多くは日陰を好むグループは、以前はジャノメチョウ科として独立の科になっていたが、今ではタテハチョウ科ジャノメチョウ亜科とするのが一般的らしい。
サトキマダラヒカゲ.拡大すると鱗粉が見える
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(2009/08/26)
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この蝶、私が高校生の頃までは只の「キマダラヒカゲ」と呼ばれていた。それが1970年頃にサトキマダラヒカゲとヤマキマダラヒカゲと言う2種に分けられた。サトとヤマの紋様の違いは非常にビミョーで、両者を並べて比較しても良く分からない程の差異である。此処で一方だけの写真を出して、その違いについて書いても殆ど意味が無いと思われるので、その違いについては省略する。
サトキマダラヒカゲの鱗粉.被写界深度が浅いので
凹凸のある翅の一部にしか焦点が合っていない
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(2009/08/26)
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紋様は酷似していても、この両者、名前から察せられる様に、棲息する場所が異なる。我が家は世田谷区の標高40m位の所にあるので、文句なしにサトキマダラヒカゲと相成る。しかし、サトは低地、ヤマは山地・・・なのだが、一般的にはそう単純には行かない。ヤマは本州中部では標高240~2000mに分布するが、サトの方も標高1500mを越える亜高山帯にまで棲息するのである。山地で採集したキマダラヒカゲは、そのビミョーな斑紋の違いを見極めて、ヤマかサトかを決めなければならない。
サトキマダラヒカゲの横顔.口の下に普段は使わない前脚が見える
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(2009/08/26)
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しかし、2種に分けられたのは、その殆ど見分けが付かない程の微妙な斑紋の差異だけを根拠としたのではない。幼虫の形態や成虫の行動にも差があり、それらの違いを丹念に調べ上げた結果、2種あるとの結論になったのだそうである。
これを調べたのは高橋真弓氏と言う当時高校の教諭で、その後日本鱗翅学会(アマチュア中心の学会)の会長なども務めた方である(一見御婦人の様な名前だが男の人)。
サトキマダラヒカゲの顔.触角が赤いのが印象的
複眼にはかなり長い毛が生えている
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(2009/08/26)
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何時もの様に、顔写真を撮ってみた。データをコムピュータに移し、拡大した像を見て驚いたことは、この蝶の複眼に沢山の毛が生えていたことである。しかも、その毛がかなり長い。双翅目(蠅、虻、蚊)には複眼に毛の生えた種類がかなりあるが、鱗翅目(蝶、蛾)ではこれが始めてである。或いは、今まで撮った蝶の中にも良く見れば毛が生えている種類が居たかも知れない。これからは眼の毛にも気をつけてみよう。
上の写真の部分拡大.毛で覆われた複眼の中に個眼が見える
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(2009/08/26)
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このサトキマダラヒカゲ、昔は我が家の常連で、秋になると柿の落ちた実などにキタテハと一緒に集っていた。しかし、最近はその数がグッと少なくなった。年に2回位しか姿を見せない。尤も、一緒に居たキタテハの方はもっと少なくなって、全く姿を見ない年の方が多い・・・。余り昔のことを想い出すと、何か寂しくなって来る。思い出話は止めにしよう。