パソコン修理の結末
その後電話がかかってきた。パソコン修理のサポートセンターに、ノートパソコンが壊れた原因と、修理にかかった費用の請求額がゼロ円なのはなぜかということを問い合わせていて、その回答だった。まず「請求額ゼロ」に関しては、「部品の交換ではなく、修理だから」ということだった。前に概算見積を聞いたとき、HDD(ハードディスクドライブ)の交換には42,000円かかり、そのうち15,000円が工賃といわれていた。さらに引き取りと再配達に2,700円。事務手数料だかなにかに2,450円。これだと修理の場合、最低でも20,000円はかかるはずだ。しかし電話をくれた担当者は関西圏のイントネーションで「お客さまの場合、部品交換されてませんので金額は発生しないことになります」といった。原因について問いただした。--故障の原因はなに?「マザーボードのエラーが認められたということで、修正というカタチで対応させていただきました」--なぜエラーになったの?普段の使い方が悪かったとか?「いえそういうことはございません。マニュアル通り使っていただいておるようですし、今回の場合は、マザーボードにエラーがあったということで。」--だからなぜエラーになるの?不良品ということではないの?「いえ構造的な不良ということでしたらきちんと公表いたしますし、もしこの製品全てが不良ということでしたら、この工場には何万台というパソコンが送られてくるわけでして。」--じゃあなんで壊れたの。1年で壊れるような基盤を不良品ていうんじゃないの。「いや機械ですからね。全部が全部1年で壊れるかというとそういうことではないわけですし、たまたま壊れてしまったから、製品自体が不良品ということではございませんですし、」--新しいのに交換してもまた1年で壊れるかもしれないよね。「先ほども申しましたが、なにしろ機械のことですから、必ず壊れるわけではありませんし、逆に絶対壊れないともいいきれません。なにしろ機械ですから。」というような調子で、なんとなく煙に巻かれてしまったが、たしかに機械だから故障するのは仕方がないといえばその通りだ。そういったある程度の故障を想定したメーカーのサービスに対する姿勢を問おうにも、「無償」とされてしまっているから、あらためて問いただす理由がないのだった。その後、どんな対策をしたのかもきいた。「専門的な内容になってしまいますが、トランジスタを交換したのかもしれないですし、ハンダで直せるようなら直したのかもしれません」まるで他人事のようなふやけた内容の台詞が飛び出してきたからオレは一気にふにゃふにゃになってしまった。原因や対策をつきとめたところで「請求額ゼロ」以上の成果を望めそうにはなかったし、もしこれに不正な思惑が絡んでいたとしても、それを追求したところで誰も幸せになることはない。とりあえずパソコンが快適に動作してくれれば問題はないわけだし、今のところフリーズするようなことはなくなった。目先の問題は解決しているのにいったいオレはなにをしているんだろう。この話の通じない変なにいちゃんはいったい誰だ。こいつの顔を想像しようとしてみたが、浮かんでくるのはベージュの作業着とその襟元から見える緑色のTシャツとメガネだけで、顔はまるでわからなかった。のっぺらぼうがメガネをかけて電話している映像が浮かび、なぜ目がないのにメガネをかけているのか不思議だったし、よくよく考えてみたらそいつには鼻も耳もないから顔にメガネがひっかかるはずがないということを考えたらもっと不思議な気分になっていった。ふにゃふにゃになってゆく精神につられて肉体も軟化してゆきそうだったから相手の話を途中で遮って、電話を切った。原因もなにもわからなかったが、なんとなく「敗北」したということだけは自覚した。