今日は、西日本中心に広い地域で雪が降ったようだが、わが大阪は、少なくとも東大阪市平野部はチラとも雪は「降りも来ずけむ」でありました。
当地は雪は降らなかったのであるが、因みにと、雪を詠んでいる歌、雪という詞が含まれる歌は万葉に何首あるのだろうと、手許の万葉集をパラパラとめくって調べてみると111首ありました。
見落としている歌がもしあるなら、その分これよりも多くなる。
長歌で雪が登場する歌は、知っているだけでも5首あり、これら長歌も含めると雪の歌は百十数首あるということになる。
今後の参考にと、これを記事に書きとめて置くことにします。
第1巻には雪の歌が見当たらず、第2巻の天武天皇と五百重娘(藤原鎌足の娘にして、天武天皇の夫人、新田部皇子の母でもある。)との軽妙なやり取りの、あの有名な歌が万葉集最初の雪の歌のようです。そして、最後の雪の歌は大伴家持の万葉集掉尾の歌、新しき年の始めの初春の・・の歌である。
(注)上記は、長歌を度外視してのことです。長歌では第1巻25番の天武天皇御製の吉野での歌に雪が詠われている。また、霰も雪の内と考えれば、同じく第1巻65番の長皇子の歌に「霰」が登場している。
第1巻(なし)
第2巻
わが里に 大雪降れり 大原の
古りにし里に 降らまくはのち (天武天皇 巻2-103)
わが岡の おかみに言ひて 降らしめし
雪の摧けし そこに散りけむ (藤原夫人 巻2-104)
降る雪は あはにな降りそ 吉隠の
猪養の岡の 寒からなくに (穂積皇子 巻2-203)
第3巻
田子の浦ゆ うち出でて見れば ま白にそ
富士の高嶺に 雪は降りける (山部赤人 巻3-318)
富士の嶺に 降り置く雪は 六月の
十五日に消ぬれば その夜降りけり (高橋虫麻呂 巻3-320)
第4巻
道に逢ひて 笑まししからに 降る雪の
消なば消ぬがに 恋ふといふ我妹 (聖武天皇 巻4-624)
第5巻
わが園に 梅の花散る ひさかたの
天より雪の 流れ来るかも (大伴旅人 巻5-822)
梅の花 散らくはいづく しかすがに
この城の山に 雪は降りつつ (大伴百代 巻5-823)
妹が家に 雪かも降ると 見るまでに
ここだも紛ふ 梅の花かも (小野国堅 巻5-844)
第6巻
奥山の 真木の葉しのぎ 降る雪の
降りは増すとも 地に落ちめやも (橘奈良麻呂 巻6-1010)
第7巻(なし)
第8巻沫雪か はだれに降ると 見るまでに
流らへ散るは 何の花そも (駿河采女 巻8-1420)
我が背子に 見せむと思ひし 梅の花
それとも見えず 雪の降れれば (山部赤人 巻8ー1426)
明日よりは 春菜摘まむと 標めし野に
昨日も今日も 雪は降りつつ (山部赤人 巻8-1427)
沫雪の ほどろほどろに 降りしけば
奈良の都し 思ほゆるかも (大伴旅人 巻8-1639)
我が岡に 盛りに咲ける 梅の花
残れる雪を まがへつるかな (大伴旅人 巻8-1640)
沫雪に 降らえて咲ける 梅の花
君がり遣らば 寄そへてむかも (角広弁 巻8-1641)
たな霧らひ 雪も降らぬか 梅の花
咲かぬが代に そへてだに見む (安倍奥道 巻8-1642)
天霧らし 雪も降らぬか いちしろく
このいつ柴に 降らまくを見む (若桜部君足 巻8-1643)
我がやどの 冬木の上に 降る雪を
梅の花かと うち見つるかも (巨勢宿奈麻呂 巻8-1645)
ぬばたまの 今夜の雪に いざ濡れな
明けむ朝に 消なば惜しけむ (小治田東麻呂 巻8-1646)
梅の花 枝にか散ると 見るまでに
風に乱れて 雪そ降り来る (忌部黒麻呂 巻8-1647)
十二月には 沫雪降ると 知らねかも
梅の花咲く 含めらずして (紀女郎 巻8-1648)
今日降りし 雪に競ひて 我がやどの
冬木の梅は 花咲きにけり (大伴家持 巻8ー1649)
池の辺の 松の末葉に 降る雪は
五百重降り敷け 明日さへも見む (巻8-1650)
沫雪の このころ継ぎて かく降らば
梅の初花 散りか過ぎなむ (坂上郎女 巻8-1651)
松陰の 浅茅が上の 白雪を
消たずて置かむ ことはかもなき (坂上郎女 巻8-1654)
高山の 菅の葉しのぎ 降る雪の
消ぬとか言はも 恋の繁けく (三国人足 巻8-1655)
我が背子と 二人見ませば いくばくか
この降る雪の 嬉しからまし (光明皇后 巻8-1658)
真木の上に 降り置ける雪の しくしくも
思ほゆるかも さ夜問へ我が背 (他田広津娘子 巻8-1659)
沫雪の 消ぬべきものを 今までに
ながらへぬるは 妹に逢はむとそ (大伴田村大嬢 巻8-1662)
沫雪の 庭に降り敷き 寒き夜を
手枕まかず ひとりかも寝む (大伴家持 巻8-1663)
第9巻
御食向かふ 南淵山の 巌には
降りしはだれか 消え残りたる (柿本人麻呂歌集 巻9-1709)
み越路の 雪降る山を 越えむ日は
留まれる我を かけて偲はせ (笠金村 巻9-1786)
第10巻
うちなびく 春さり来れば しかすがに
天雲霧らひ 雪は降りつつ (巻10-1832)
梅の花 降り覆ふ雪を 包み持ち
君に見せむと 取れば消につつ (巻10-1833)
梅の花 咲き散り過ぎぬ しかすがに
白雪庭に 降りしきりつつ (巻10-1834)
今さらに 雪降らめやも かぎろひの
燃ゆる春へと なりにしものを (巻10-1835)
風交じり 雪は降りつつ しかすがに
霞たなびき 春さりにけり (巻10-1836)
山のまに うぐひす鳴きて うちなびく
春と思へど 雪降りしきぬ (巻10-1837)
峰の上に 降り置ける雪し 風のむた
ここに散るらし 春にはあれども (巻10-1838)
君がため 山田の沢に ゑぐ摘むと
雪消の水に 裳の裾濡れぬ (巻10-1839)
梅が枝に 鳴きて移ろふ うぐひすの
羽白たへに 沫雪そ降る (巻10-1840)
山高み 降り来る雪を 梅の花
散りかも来ると 思ひつるかも (巻10-1841)
雪をおきて 梅をな恋ひそ あしひきの
山片付きて 家居せる君 (巻10-1842)
山のまに 雪は降りつつ しかすがに
この川楊は 萌えにけるかも (巻10-1848)
山のまの 雪は消ざるを みなぎらふ
川の沿ひには 萌えにけるかも (巻10-1849)
雪見れば いまだ冬なり しかすがに
春霞立ち 梅は散りつつ (巻10-1862)
あしひきの 山かも高き 巻向の
崖の小松に み雪降り来る (巻10-2313)
巻向の 檜原もいまだ 雲居ねば
小松が末ゆ 沫雪流る (巻10-2314)
あしひきの 山路も知らず 白橿の
枝もとををに 雪の降れれば (巻10-2315)
奈良山の 峰なほ霧らふ うべしこそ
籬のもとの 雪は消ずけれ (巻10-2316)
こと降らば 袖さへ濡れて 通るべく
降りなむ雪の 空に消につつ (巻10-2317)
夜を寒み 朝戸を開き 出で見れば
庭もはだらに み雪降りたり (巻10-2318)
夕されば 衣手寒し 高松の 山の木ごとに 雪そ降りたる (巻10-2319)
我が袖に 降りつる雪も 流れ行きて
妹が手本に い行き触れぬか (巻10-2320)
沫雪は 今日はな降りそ 白たへの
袖まき乾さむ 人もあらなくに (巻10-2321)
はなはだも 降らぬ雪ゆゑ ここだくも
天つみ空は 曇らひにつつ (巻10-2322)
わが背子を 今か今かと 出で見れば
沫雪降れり 庭もほどろに (巻10-2323)
あしひきの 山に白きは 我がやどに
昨日の夕 降りし雪かも (巻10-2324)
雪寒み 咲きには咲かず 梅の花
よしこのころは かくてもあるがね (巻10-2329)
八田の野の 浅茅色づく 愛発山 峰の沫雪 寒く降るらし (巻10-2331)
降る雪の 空に消ぬべく 恋ふれども
逢ふよしなしに 月そ経にける (柿本人麻呂歌集巻10-2333)
沫雪は 千重に降りしけ 恋ひしくの
日長き我は 見つつ偲はむ (柿本人麻呂歌集 巻10-2334)
吉隠の 野木に降り覆ふ 白雪の
いちしろくしも 恋ひむ我かも (巻10-2339)
一目見し 人に恋ふらく 天霧らし
降り来る雪の 消ぬべく思ほゆ (巻10-2340)
思ひ出づる 時はすべなみ 豊国の
木綿山雪の 消ぬべく思ほゆ (巻10-2341)
夢のごと 君を相見て 天霧らし
降り来る雪の 消ぬべく思ほゆ (巻10-2342)
我が背子が 言うるはしみ 出でて行かば
裳引き著けむ 雪な降りそね (巻10-2343)
梅の花 それとも見えず 降る雪の
いちしろけむな 間使ひ遣らば (巻10-2344)
天霧らひ 降り来る雪の 消なめども
君に逢はむと ながらへわたる (巻10-2345)
うかねらふ 跡見山雪の いちしろく
恋ひば妹が名 人知らむかも (巻10-2346)
海人小舟 泊瀬の山に 降る雪の
日長く恋ひし 君が音そする (巻10-2347)
和射美の 峰行き過ぎて 降る雪の
厭ひもなしと 申せその兒に (巻10-2348)
以上73首(第10巻まで)
第11巻~20巻は、ページを改め「雪の万葉歌(下巻)」として記事アップすることとします。
(雪の浅間山)