馬鹿な男
家族になりたい。生まれて初めて、そう願った女性と出会った。本気でぶつかった。死に物狂いで。家族や親戚にも紹介された。手の届かない女性だと分かっていたけど、もしかしたらと思った。今度はうちの両親を紹介しなきゃと、舞い上がったりもした。駄目だった。良好だった関係が一気におかしくなった。共通の知り合いが多かったから、悪者になる道を選んだ。人の噂は怖い。好きになったあの人が悪く思われるのは耐えられなかった。この道を選べば完全に嫌われると分かっていたのに。俺の気持ちは何一つ変わってはいないのに。それでも選んでしまった。馬鹿な男だと笑われるかもしれない。不器用だから、他に彼女を守る術を知らなかった。彼女の俺を見る目が変わった。周囲の俺を見る目も変わった。人の心が離れていくのが分かった。仕事に打ち込んだ。別に逃げてたわけじゃない。足りないものを埋めようとしただけ。そう思い込もうとしていた。働き過ぎて、休みを消化しないといけなくなった。時間が出来た。考える時間が出来てしまった。覚悟が後悔に変わりそうになってしまう。痛め続けた心が悲鳴をあげているのが分かる。正直、キツイ。俺は・・・どうすれば良いのだろう。どうすれば良かったのだろう。俺の気持ちは何一つ変わってはいないというのに。彼女の笑顔が俺の幸せだったというのに。人生は残酷だ。だからこそ、面白い。いつか、そう笑って話せる日が来るのだろうか。