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HANNAのファンタジー気分

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December 9, 2013
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 このごろひそかに人気が出てきている(らしい)、ベーデー(BD=bande dessinée、フランス語の漫画)の代表的作品(らしい)、『闇の国々2』を読みました。

 もちろん「1」から読みたかったんですが、図書館で予約をかけてもなぜだか全然借りられないので…。といっても、これは1巻から連続した話ではなく、パラレル・ワールド的なヨーロッパのいろいろな都市を舞台にした、独立したいくつかの作品集です。

 表紙は、エッシャーのだまし絵みたいな建築群に、大きすぎる人間。
 中を読むと分かりますが、実はこの建築群は「模型」なのでサイズが合わないのです。
 このように都市や巨大建築を描く物語では、必ずそれをいろんな視点から見るシーンがありますね。上から眺め渡したり、下から仰ぎ見たり、この表紙のようにサイズちがいで眺めてみたり。それは、ファンタジーの効用である、“ふだんと異なる視点で現実を見る”とか“世界の意匠をかいま見ること”などにつながると思われます。
 また、巨大な都市や建物は、現代では人間の卑小さを知らしめる手近なモノとしても有効です:

  外灘に立ち並ぶ/高層ビルが/俺たちの戦いを/嘲笑ってるぜ…
                            ――森川久美『南京路に花吹雪2』

 それはともかく、この表紙をめくると、まず古地図風の「闇の国々」マップがあり、ファンタジー魂がわくわくしてきます。地名や都市名はどこかで聞いたようなものもあれば、聞いたこともない奇妙なもの、また、明らかに実在の都市を思わせるもの(パーリ、ブリュゼルなど)があります。

 「2」には4つの話が載っていますが、レトロ感にあふれた、緻密なイラストがぎっしりです。イラストレーターは、たった一人でキャラクターから背景から全部描いているそうで、きっとものすごいエネルギーが必要だと思われます。

 私は日本のコミックスでも、上に挙げた森川久美のように、背景の都市を細部まで描きこむタイプの絵が大好きなのですが、いや、このフランス版コミックスには圧倒されます。1コマ1コマが細密画か設計図のようで、完全にマニアックの域です。モノクロで描かれた光と影の世界もすごいですが、何ともシブい色づかいのオールカラーの作品もあります。

 キャラクターも、表情豊かで真に迫り、質感たっぷり。登場人物の外見や表情を単純化することで絵に語らせる、日本のコミックスやアニメの典型的な描き方とはまた違った魅力ですね。

 話し手と描き手のコンビで別世界を描き出すというと、ロード・ダンセイニと画家シームを思い出します。彼らが中世風の大人びたおとぎ話をつむいだのに対し、こちらは前世紀の近未来SF、といった趣です。実際、本国で発表されたのは1980年代~です。

 ストーリーは、理知的に良くできた悪夢、またはグリム童話的な残酷さを思わせるもので(作者はグリム童話が大好きだったそうです)、これがヨーロッパ的な“人間の根底にある不安や恐怖”なのかなと思います。
 たとえば第1話。辺境都市サマリスでは、主人公が出会う住民も建物もみな幻やハリボテで、都市そのものが食虫植物のごとく周りを侵食しながら幻影を生み出しています。主人公と同様、読者も、現実と思ったモノがつくりもの(幻想)だったという驚愕と恐怖にじわじわと侵食されていき、しまいには自分は何者で今はいつでここはどこなのか、という、自己の存在の根源をゆるがされてしまいます。

 これはたとえば、自分は夢でチョウチョになったのか今の自分がチョウチョの夢なのか、と思った荘周が、「どちらにせよ私は私だから大丈夫」と納得する東洋の考え方とは、だいぶ違います。

 第2話でもヨーロッパ的不安は続きますが、都市の地下に巨大な電気回路?が埋まっているという幻想?がでてきたときには、井辻明美の描く「風街」の広場の地下でみずから脈打つ水道管(地震を起こしたりする)を思い出しました(『風街物語』)。
 ここでも、風街の水道管が不気味ながらもどこか愛嬌があり住民に親しまれているのに対し、闇のパーリ(パリ)の地下にある電線は、主人公に頭痛と恐怖を与えます。

 第3話と第4話は、途中はかなり不気味ですが、結末に救いがあるというか、希望のある終わり方をしているので、ファンタジー的にはほっとします。私はやはり、落ち着くところに落ち着く話が好きですね。

 ともあれ、何度も見返して絵の細部まで堪能したい作品なのですが、大きく分厚いうえにお値段も張り、購入するのは勇気が要りそう。でもって、もう4巻まで出ているらしいのです!

 





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Last updated  December 11, 2013 10:10:21 PM
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