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HANNAのファンタジー気分

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February 27, 2014
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 『闇の国々1』の「塔」の主人公が、さえないおじさんから貫禄たっぷりの権力者へと変わってゆくと先日書きましたが、「狂騒のユルビカンド」の主人公、また2巻の「ブリュゼル」の主人公なども、どちらかというと“変なおじさん”です。

 しかし、物語の中で偶然・ゆきずり系の出会いをした女性とあっというまにラブラブに。しかも、どのお話でも女性の方から一方的で強引なアタックがあり、次の瞬間ベッドインしている、というありさま(「ユルビカンド」では女性に見捨てられていますが)。恋の成就までの過程をだらだら楽しむことの多い日本読者はビックリです。
 さすがフランス人、恋愛感覚がまるでちがう・・・と思いますが、何というか、やっていることの割に女性たちはあまり色っぽくないんですね。本能の赴くままに行動している、という感じ。
 それでいて、彼女たちのなんと力強く、生き生きとエネルギッシュで、物事を鋭く見抜いていることでしょう。「ユルビカンド」のソフィは人々に呼びかけて学究肌の主人公を牢から解放させ、権力を握らせようとします。「ブリュゼル」のティナも、主人公を救出し、力づけ、崩壊する都市を一緒に脱出して未来へ向かっています。「塔」のミレナもしかり。
 このシリーズがどこまでも描き続ける、砂上の楼閣のような大都市の中で、ともすると論理的袋小路にはまって生命力を失ってしまいそうな男たちの、ほっぺたをひっぱたいて目を覚まさせ、人間性を回復させ、前へ進む原動力を与えているのは、たくましいヒロインたちなのでした。

 1巻最後の「傾いた少女」は、主人公が少女なので、他の作品とは趣を異にしています。
 メリーは町の有力者の娘ですが、11歳のとき、とつぜん体がまっすぐ立たなくなります。母からは顔をそむけられ、寄宿学校ではいじめられ、居所のないメリーはさまよったあげくサーカスで我が身を見せ物にする羽目に。
 このあたり、ありがちな展開ですが、つまりメリーは“他人とは違った自分”であるがゆえに、苦しむのです。体が傾くというのは奇抜な現象ですが、よく考えると、考え方や趣味や感性が“傾いている”つまり他の人と違うことで、いじめられたり悩んだりするのは、社会生活を送る人間(とくに思春期の若い世代)にはよくあるできごとです。
 傾かず受け入れられる場所を求めて彼女はある天文学者のもとへ行き、

  「メリーは別の惑星の引力の影響を受けているのです。・・・(中略)・・・いわばメリーは場違いな存在…それこそが・・・別の世界の存在をはっきりと表しているのです。あなたが結びついている世界をね、メリー」
  「不思議ね。ねえ先生、私もずっとそんなふうに感じていたの。」
      ――ブノワ・ペータース作、フランソワ・スクイテン画『闇の国々2』「傾いた少女」古永真一訳

 思春期の強烈な自己疎外感。それを、このように表現すると、がぜんファンタジックなにおいがしてきます。天文学者の助力でメリーはロケットに乗って異世界へ旅立ちます。
 そして、彼女と魂が引かれあっていたのは、現実世界の孤独な画家でした。写真で構成される、この物語の別の半分は、画家が何かに突き動かされたように荒野へ赴き、廃屋で絵を描き、描くことによってついに世界の壁を越え、メリーに出会います。まさに運命の相手とのめぐりあいです。
 おもしろいのは、メリーがその世界の科学の力で到達した場所に、画家は芸術的インスピレーションで到達するところ。そしてそこでは彼女の体はもう傾いていませんでした。

 二人の出会いはしかし、すぐに終わってしまいます。二人で何かを成すわけでなく、出会うことだけがお互いの自己確認にとって大切だったようです。
 元の世界に還ったメリーは、もう傾きません。一人前の大人となり、父の後をついで大事業を成し遂げた彼女の顔にはまったき自己を得た力と自信と安定感があふれています。
 このお話はここで終わっていますが、あとについている「年表」によると、彼女は社会でやるべきことをやって、それから再び世界を超えて旅をするようです。すばらしい生き方、といえるでしょう。(それに比べて画家の方はちょっと情けない感じで、やはり彼も“さえないおじさん”の域を出なかったのかもしれません。)

 

  





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Last updated  February 27, 2014 11:47:35 PM
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