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HANNAのファンタジー気分

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November 15, 2017
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 『妖精国の騎士』は完結までに何度かこのブログでも取り上げましたが、(娘に薦めたのがきっかけで)再読し、思うことを少し書き留めることにします。

 この長編異世界ファンタジーは、3つの魔剣とその使い手「剣の主人」たちの物語です。主人公ローゼリイが持つ光の剣は、光と闇の両方の魔力を引き出すことのできる最強の剣ですが、「破滅の剣」でもあり、人間界ではこれに関わると国が滅びることになります。
 いっぽう精霊界では、剣の柄に埋めこまれた「運命の星石(サフィール)」の魔力が注目の的で、その絶大な力を欲して冥府の魔神たちが争います。

 ではサフィールの持つとされる「運命をも変える力」とは、具体的に何なのでしょう。

  魔力の宝石は運命をも変えるといわれております
  それは善であれ悪であれ人の力にあまることで
  持ち主に破滅をもたらします
         --中山星香『妖精国の騎士』第1巻エドストレームのせりふ

 永遠の獄に封じられた魔神にとってこの力は脱出し再生する力であり、永遠の春を楽しむ仙境の妖精たちにとっては、衰退や滅びをもたらすと忌避される力です。
 それゆえ、物語前半、ローゼリイにとってサフィールは、人外の存在たちの争いやの排斥の源であるためやっかいな代物でしかありません。

 しかし、冷静に見渡すと、この物語世界には現実世界と同様「運命」を決める絶対神や掟などは見あたりません。たまに「運命の神」という表現が出てきますが、具体的な神さまは出てこないのです。従って運命とは確定したものではないようです。
 サフィールの説明をしたエドストレームも、こうも言っています;

  人の運命を決めるのは人自身です   --第2巻

 決められた未来などない、人生は自分で決めて歩むもの。これは実は当たり前のことのように思えます! その証拠に、人間たちは光の剣の禍々しい噂をするわりに、サフィールについてはほとんど言及せず、その魔力も欲しがらない様子です。

 してみると、サフィールは人間の心=意志の象徴とみることができます。そしてこれは、人外の精霊や魔神にはない人間独自の力であり、精霊や魔神もふくめて世界の運命をも変えることが出来る最強のパワー、ということになります。

 もちろん、実際には自分の運命=生きる道を自分で決めて進むのは、いつだってむずかしいもの。だからこそ、人間独自の力でありながら「人の力にあまる」力なのでしょう。ローゼリイ自身、

  私は光の剣を抱きとめ凶運を幸運に変えてゆく初めての者になろう!!  --第3巻

と強く誓うものの、次々に降りかかる試練に翻弄され、ようやく第38巻になって、

  私が用い方さえ間違えなければ
  お前〔=光の剣〕は破滅の魔力をもたらさないで
  〔中略〕祝福された存在になれるの……?

と再確認するのです。

 光の魔剣は運命を切り開くツール(道具)であり、魔石サフィールは、自らの運命を自力で決しようとする主人を生かし続ける原動力のようです。
 だからこそ、

  もしも今ローゼリィ姫が心の暗黒に抱かれて死ねば
  運命の宝石は闇にくだります   --第2巻

というふうに、善にも悪にもなり得る存在なのです。何となれば、人間は光と闇の両方でできている、というのが星香ワールドの大前提なのですから。

 冥府の魔神もうらやみ、妖精たちの住む仙境をも滅ぼしかねない、最強の力の持ち主こそは人間。そのように解釈すると、数あるファンタジーのお宝の中でも、なかなかに味のある逸品ですね、サフィール。

 (もちろん、ファンタジーはさまざまな読み方が可能なので、これはその一つに過ぎません。いろいろな読み方を楽しめるのが、良いファンタジーだと思います。)





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Last updated  January 5, 2020 09:43:30 PM
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