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カテゴリ:映画と原作
2月13日は第二次世界大戦の、連合軍によるドレスデン無差別空爆の日だそうです。短い場面や挿話をコラージュしたSFで知られるカート・ヴォネガットは、若き日に捕虜としてドレスデンで遭遇したこの爆撃前後の様子を『スローターハウス5』にしるしています。
日本がこうむった空襲や原爆にも共通する、民間人をふくめ街全体が焼き尽くされた地獄。その主題はもちろん、それをどう小説化するか作者自身が葛藤した様子までもが、独特のユーモアと皮肉たっぷりに軽妙に語られます。それでいて(だからよけいに)、体験者にしか分からない苦しみが伝わってきます。 物語の構成も、「さえない一兵卒ビリーが捕虜として収容されたドレスデンで空爆にあう」というストーリーを時系列で語るのではなく、各場面ばらばらにして、その間隙に戦争前と戦争後のビリーの生涯の断片をつぎはぎして入れこんであります。口べたで滑稽なビリーが戦後には成功したお金持ちというのが、皮肉であり笑いです。さらに、その生涯の一時期、ビリーはUFOに誘拐され地球の遙かかなたトラルファマドール星で、動物園に入れられ異星人たちの見せ物になっていたという、ぶっとんだ挿話もあります。 文庫版の解説にもあるのですが、思うに、戦争という愚かしい、怒りのぶつけどころのない悲劇を体験した作者は、まともな思想や文体ではその体験を物語ることが出来なかったのでしょう。思い出すのもつらい、気の狂いそうな体験を消化するために、作者はビリーに滑稽な外見や振る舞いをさせ、突き放すように皮肉り、けいれん的に時間を浮遊する病的な変人に仕立て、地球外へ放り出すという、滅茶苦茶な目にあわせたのでしょう。つまり、痛みを消化するためのファンタジー。 そう感じながら読むと、この小説の構造自体が、戦争の滅茶苦茶さと、戦争によって滅茶苦茶にされた人間とをそのまま体現しているようにも思えて、心が痛いです。 ところで、この小説は70年代に映画化されていて、昨年のいつだったかTV放送されたのを、先日録画で見ました。小説でのはちゃめちゃな断片が、映画では回想シーンとしてわかりやすく整理されており、それほどぶっとんでいない、静かに鑑賞できる作品になっていました。 映画のビリーを見たとたん、おや知っている、と思ったら、私の持っている早川SF文庫のカバーに描かれたビリー(和田誠の画)と同じ風貌でした。映画を参考に描いたのかしら? このビリー、小説でも映画でも「精神状態だいじょうぶ?」と言いたくなる(実際にビリーの娘がそんなふうに父に言っている)ほど、ぼうっとして世間とズレた人物なんですが、ほんとうに心根の良いやさしい人。特別なやさしさではなく、人間だれもが本来持っている自然なやさしさがにじみでている人で、戦争に痛めつけられながらも損なわれないその「良さ」だけが救いだなあ、と思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
September 30, 2019 11:37:40 PM
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