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HANNAのファンタジー気分

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February 6, 2021
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 先日の「ブレンダンとケルズの秘密」に続く、トム・ムーア監督の2作目。
 今度は、セルキー(アザラシの妖精。アザラシの毛皮を脱ぐと人間になる!)のお話です。
 アイルランド映画でセルキーが出てくるというと、​以前紹介した「フィオナの海」​(原作はスコットランドが舞台ですが)がありますーー実写で、海面から顔を出したり、岩場に寝ころんだりしながらジッと見つめてくるアザラシたちが、かわいい中にも野性味あふれていました。いっぽう、「ソング・オブ・ザ・シー(The Song of the Sea)」はアニメなので、アザラシも人間もデフォルメされています。でもそのデフォルメのされ方が、まるでケルト独特の複雑な紋様になって広がっていくようで、やっぱり魔術的。

 また、「フィオナの海」では離島生まれの姉フィオナが普通の人間で弟がアザラシと友だちでしたが、「ソング・オブ・ザ・シー」は灯台の島の兄ベンが普通で、妹シアーシャがセルキーです。ベンたちの母はアザラシになって海へ去ってしまいました。それでお父さんは気力を失い、パブでお酒を飲んでいます。アイルランドの田舎のパブは暗くお客もまばらで、ただ孤独にお酒を飲むばかりの寂しい隠れ家のような場所に描かれています(実際、そんな感じのパブを昔、スライゴーで見かけました!)。
 
 シアーシャは6歳の誕生日に、しまいこまれていた羽衣ならぬアザラシの毛皮のコートを発見します。6歳というと、物心つく頃、つまり幼年時代から子ども時代への過渡期ですね。個人としてのシアーシャは、人間になるかアザラシの妖精になるか、選ばねばならないのでしょう。
 この夜、たくさんのアザラシが海岸まで迎えに来て、コートを着たシアーシャは小さなアザラシの姿になり、真夜中の海に飛び込んで、解き放たれてのびのびと泳ぐのです。
 「♪ありの~ままの~自分になるの~」と歌いたくなりますが、この物語のテーマソングは、お母さんであるセルキーが歌って聞かせた「海のうた」;

 ♪いざなう 波間 / 命の 静寂(しじま)・・・

 (アマゾンプライムでは吹き替え版しか観られなかったので、歌詞も日本語で。)
 シンプルながら心の底にひびくメロディーで、以前お母さんはこの歌が聞こえる大きな巻き貝をベンにくれました。
 巻き貝の口に耳をあてると波の音が聞こえるというのは、よく言われますね。コクトーの詩に「私の耳は貝の耳 海の響きをなつかしむ」っていうのがありましたっけ。

 トム・ムーア監督は宮崎駿をリスペクトしているそうですが、そう思うと、シアーシャは水界と地上のはざまに生まれ、野性的で、そう、ポニョのようでもあります。そして彼女の面倒を見る常識人の男の子ベンは、宗介のよう。

 都会(ダブリン)からおばあちゃんが乗り込んできて、「こんな寂しい所で育てるなんて!」と言って子どもたちを引き取るところは、ベンたちの目線で、何だかひどいおばあちゃんだなあ、と思います。でも本当は、おばあちゃんは子どもだけでなく、自分の息子であるお父さんの心配をしているのです。

 兄妹はおばあちゃん宅を脱走しますが、旅の途中、心を奪われ石像にされる妖精たちや、おそろしいフクロウ、地下の流れの果てにいる語り部の老人などに出会いますーーアイルランドならではの伝説をめぐりながらファンタジックな旅。
 その中で、フクロウの老婆マカ(=アイルランド・ケルト神話の恐ろしい女神マッハです!)が妖精たちから心を奪うのは、そもそも、恋人を失った息子マクリル(海神マナナン・マック・リールです!)の悲しみを取り除こうとしたためだった、と分かります。心を失ったマクリルは石(岩の島)になり、その岩山はベンの故郷の灯台島のすぐそばにあります。

 つまり、マカ=おばあちゃん、マクリル=お父さん (ついでに語り部=本土のおじさん)なんですね。デフォルメされた顔がそっくり、声も同じ声優さんです。マカの住まいは人里離れた家ですが、中の音楽やお茶の様子は、おばあちゃん宅を彷彿とさせます。してみると、この世の現実は、くりかえしよみがえる神話なのですね。

 ハラハラドキドキの果てに、ベンの真心が妹に力を与え、マカの悲しみを解きます。そして家への爽快な疾走。ベンの勇気が父と妹とを再生させると、マクリルとアイルランド中の妖精たちも再生します。伝説の具現と家族の愛のきずながぴったり寄り添ったエンディング。これぞ、ケルト・ファンタジー。

 第3作​「ウルフウォーカー」​がちょうど今、日本各地で上映中なんですけど・・・、昨今の情勢では観に行けそうにない! 残念です。





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Last updated  February 7, 2021 12:30:17 AM
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