テーマ:短歌:31文字の愛情(80)
カテゴリ:詩詞・短歌・俳句
1月31日の日経歌壇におもしろい短歌があった。
岡井 隆さん選の作品に モ ナ リ ザ が 「 三 度 目 で す ね 」 阿 修 羅 の 目 は 「 あ な た は 八 千 万 人 目 で す 」 吉 村 一 (横 浜) モナリザの絵も阿修羅像もどちらも、作品と鑑賞者の関係という意味では同じはずなのに、かたや 「三度目ですね」 かたや 「八千万人目です」 と、声をかければ答えてくれそうに思える。 モナリザの絵は、鑑賞者ひとりひとりと 1 対 1 の私的関係を取り結ぼうとするパワーがある。 鑑賞者という個人にまで降りてくる微笑のちから。 個人にまで降りてきて 「あぁ、あなたはもうわたしに3度も会いに来てくれたのね」 と言ってくれているような。 それに対して阿修羅像が鑑賞者に対して発するパワーは、私的関係でも公的関係でもなく、それを超えた天空の一体感だ。 存在ひとしき何千万もの衆生(しゅじょう)に、阿修羅のちからが注がれる。 だから、阿修羅にとっては 「あなたは八千万人目です」 理屈を解説したら 200字以上もかかることを、じつにさらりと述べた。 解釈することを楽しめる歌だ。 岡井 隆さんは ≪モナリザが日本へ来るたびに見に行くのだろう。阿修羅の数字は情報が教えた。≫ と解説している。 * 穂村 弘さん選の作品に 冬 山 に 吾 れ 専 用 の 方 舟 (はこぶね) を 作 る 音 せ り 耳 を 澄 ま せ ば 藤 原 建 一 (盛 岡) 厚めに岩絵具を塗った、モノトーンにやや茶色の混じる日本画を感じた。 「吾れ専用の方舟」 は、いろいろに読むことができる。 ひそやかな安逸へ逃避するための場所だろうか。 冷気を浴びた傲岸(ごうがん)の砦(とりで)とも読める。 「冬山の音」 は、石を撃つように透き通った木こりの音のイメージ。 読むほどに、より深い幻想に迷い込みたくなってくる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Jan 31, 2010 11:13:27 PM
コメント(0) | コメントを書く
[詩詞・短歌・俳句] カテゴリの最新記事
|
|