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Jul 10, 2010
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カテゴリ:読 書 録
ピカソについての評論なら岡本太郎さんの 「青春ピカソ」 がいちばんだ、とどこかで読んで、これを収めた 『岡本太郎著作集2 黒い太陽』 (講談社、昭和55年刊) を図書館で借りた。

「青春ピカソ」は、フランスで作品と向かい合った感動体験から書き起こす。
読みながら、ぼく自身の感動体験と引き比べ、引き込まれた。

次々とスタイルを破壊し脱皮する、駆け抜けてゆくピカソを高く評価する岡本さん。
その一方で後年の、何を描こうが受け入れられる身分となったピカソのいとも自在なる停滞へは、世間の高い評価とは逆に飽き足らず思う部分があることを記している。



本に収められた 「自伝抄」 で、この有名人の生い立ちを知った。

「伝統」について描かれたくだりは、ぼくの日頃の思いと共通している。引用する。

≪私は何かといえば伝統をかさにきて、権威ぶっている連中、それが 「現在」 を空しくしていることに我慢できなかった。
伝統と伝統主義とはまったく違う。

伝統は過去に頼ることでも、パターンを繰り返すことでもない。
いつでも新しく、瞬間瞬間に生まれ変わり、筋を貫きながら現在に取り組むこと、それこそが伝統を創るのだ。≫
(395ページ)

ぼくがかねて信奉している 「伝統とは創るものだ」 という定理を、またひとつ補強してもらえた。
「黒い太陽」 にも、こんな一節がある。

≪今日、世界が形式的伝統を否定することによって、真に世界的であると同時にローカルな新しい伝統をうち建てているのに、型どおりの伝統を続けるとすれば、日本文化は記念博物館のように、愚直にも土俗的雰囲気に窒息しなければならない。≫

≪われわれ日本人こそ、あの伝統主義の憂鬱な雰囲気から一度すっかり脱却し、それを越えてゆかなければならない立場にある。≫
(164ページ)



「感動」 を、「同質化」 ということばで分析してみせたくだりも、腑分けの切れ味に感服した。

≪ピカソがプリミティーヴな初期浮世絵版画にほれこんだり、グロピウスやアルプが日本の石庭に感動したり、タウトが桂や伊勢神宮や飛騨の農家に頭を下げる。

―― 彼らは珍しいから面白がってるのではない。藝術家としての眼で見てピンとくる造形的な純粋さ、それに心が打たれるのだ。それが彼らにとって発見であるからこそ新鮮であり強烈なのである。

エキゾティックな興味ではなく、その瞬間、同質化する感動なのだ。≫
(52~53ページ)



「黒い太陽」 のなかで、たまさかに出会った美しい女性への賛嘆のことばにも、大いに共感した。この愛惜がなければ、藝術はさびしくなる。

≪会期の終わる前の日、ふるえ上がるほど美しい女性が現れて値段を聞く。金なんかどうでもよい、差し上げてしまいたいくらいだったがそうもゆかない。

彼女は明日でおしまいと聞いて非常に残念そうだったが、
「それでは多分明日、友だちをつれて来るから。」
といって帰って行った。

翌日私は一段と緊張して待機していたのだが、ついに彼女は現れなかった。
サインもアドレスも置いていったから、これはどうしてももう一度個展を開かなければなどとたいへんに気を回してしまった。≫
(146~147ページ)

まさに fall in love だ。作品をただで上げてもいいと衝動的に思い、このひと一人に会うためにでも個展を開きたいと衝動的に考える。
「せつない」 を一気に燃やすようなこの気持ち、わかるなぁ。

昭和28年5月のカイロでは、こんなこともあったと。やはり 「黒い太陽」 から。

≪ムッサディエ嬢という白い紗(しゃ)のドレスに装った若い令嬢に紹介された。

プルミエ・バル (premier bal 最初の舞踏会) に出たという感じの初々しい女性である。
だが、青灰色の大きな眼がすばらしく情感的だ。

彼女のような、たおやかな娘がこの激しい気候に、よく耐えられるものだと奇妙に感動したりする。
酔いはすでに回ってしまっている。するとどうもこのお嬢さんのそばを離れがたくなって来た。

この宵は何と透明ですばらしいんだろう。
ムッサディエ嬢はこの天の星のような美しい眼をきらめかせながら
「私たちもこの宵のためにこそカイロに居るのです。こんな夢のようにすばらしい夜の美しさはヨーロッパにはありません。」

私もその通りだと思った。カイロにあの窒息するような昼間がなくて、こんな宵ばかり続いて、しかも彼女のように美しい女性がいつまでも僕のそばに居てくれるのなら、日本に帰るのをやめて、もうこのまま ―― と図々しくも切ない思いが胸をかすめ……(後略)
(193~194ページ)

せつなさが、クラシックである。





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最終更新日  Jul 10, 2010 01:00:50 PM
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