テーマ:政治について(20112)
カテゴリ:世界を見る切り口
ラインハルト・ゲーレン (Reinhard Gehlen) 少将の、媚びない慧眼にひかれた。どういう人だったのか、もっと知りたい。
≪戦後ドイツ情報機関の構想の中心となったのが、旧参謀本部東方外国軍課課長であったラインハルト・ゲーレン少将である。 ゲーレンは戦時中に敗色が濃厚になる以前から、戦勝の可能性を限りなく低いものと見積っており、早くも1944年の春には、東方外国軍課のおもにソ連にかかわる情報資料を戦後の西側の対ソ冷戦を戦ううえでの資産とするため、退避・隠匿させておくという決断を行っていた。≫ (86~87ページ) ナチスの体制側の中枢にいながら、10年先を見据えて独自の動きをした男がいたということだ。 「したたか」 とは、こういうひとのことを言うのだろう。 ≪1945年4月にゲーレンが予備役に編入されたのを機に、こうした東方外国軍課のソ連関連資料を防水ケースに詰め、南ドイツのアルプス山中に埋めた。 その後、アメリカ軍に計画的に投降したゲーレンはこの資料と引き換えにアメリカ軍との取引を開始する。≫ (87ページ) 戦後の 「ゲーレン機関」 の生みの親となったラインハルト・ゲーレンのことをウィキペディア日本語版で読むと、ただの陰険なおやじのような印象だ。 歴史が、光の当て方や切り口でちがったものになる一例。 落合浩太郎 編著 『インテリジェンスなき国家は滅ぶ ― 世界の情報コミュニティ』 (亜紀書房、平成23年刊) 諜報機関という切り口で各国の近現代史を書いた本。 英国、フランス、ドイツ、米国、ロシア、イスラエル、韓国、台湾、中国、日本について、それぞれ別の執筆者が書いている。 編者の落合浩太郎さんは米国の章を担当している。点は辛い。ぼく流に言い直せば、並み居る情報機関が自らは外国語もできない鵜飼にすぎない体たらくだと。 ドイツについて書いているのが大原俊一郎さんで、章の題名を 「戦略的情報機関創設と暫定国家からの脱却」 と記している。 まともな情報機関を有さねば、国家はしょせん暫定国家だし、また日本のような暫定国家ではまともな情報機関をもつことはできない。 そういう鶏と卵の関係だなぁと、本書を通読して思うことしきりである。 まことに ≪ドイツにおける主権回復は、再軍備と情報機関の設立を2つの柱として遂行されたのであった。≫ (90ページ) ≪ドイツでは平時から緊急時における備えを綿密に議論していたのである。 大きな国家改革のたびに憲法改正が行われ、暫定国家と主権国家との間の格差を埋めつつ、法体系としての整合性を整えていった。 こうしてでき上がった連邦共和国基本法は、人権から議会・政府・司法の制度、地方自治に至るまで、つねに法体系の要として、国家のグランドデザインであり続けている。 これに対し、日本国憲法は 「憲法」 の名をいただきながら、最後まで 「暫定措置」 の枠組みを超えることができなかった。 すなわち、法体系として主権国家に必要な機能を欠いており、日本国憲法は本質的に 「暫定憲法」 であり続けたのである。≫ (111ページ) * 韓国の項、KCIA の設立のところで興味深い記述がある。 ≪設立当初の捜査要員およそ3千名は、陸軍の情報局、防諜部隊、諜報部隊、憲兵隊、警察などの捜査機関から選抜された。 この過程で日本統治時代に特別高等警察で勤務した者が、多数リクルートされた。≫ (230ページ) 韓国式自虐史観に基づいて、歴史博物館のたぐいに 「特高に拷問される烈士」 の猟奇的な蝋人形ジオラマがあるそうだけど、そういうシチュエーションで実際に手をくだしていたのは特高の朝鮮人役人のはずなんだよね。 当時の朝鮮社会の階層を考えれば、わざわざエリートの日本人が自ら朝鮮人を拷問する必要はない。 猟奇的な蝋人形ジオラマに登場しているのは、責めるほうも苦しむほうもどちらも朝鮮人だろうね。 ジオラマを作るひとやジオラマを作らせるひとがそれに気がつくことが、あるべき歴史認識の出発点だろうね。 * 台湾の章では255ページに、張愛玲著 『色,戒』 の現実のモデルである鄭蘋如のことが書いてある。 ネット検索したら、柳沢隆行 著 『美貌のスパイ鄭蘋如 ― ふたつの祖国に引き裂かれた家族の悲劇』 (光人社) という本がある。こんど読んでみよう。 本書 『インテリジェンスなき国家は滅ぶ』 のさいご、日本についての章を読むと、まだまだ日本は暫定国家にすぎないとの感を深くする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
May 20, 2012 12:40:39 PM
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