テーマ:読書(8504)
カテゴリ:読 書 録
遠山景元(かげもと) (1793~1855)。
北町奉行。 遠山の金さん、である。 遠山景元を 「刺青(いれずみ)の名奉行」 に仕立てたのは、旧幕臣の中根香亭(きょうてい)。刺青の件は、景元よりも先輩格の町奉行の逸話を景元の話としてガッチャンコしたものらしい。 ≪その実像は、旗本として順調な出世を遂げ、頂点までのぼりつめた高級官僚というのがふさわしい。伝説的な名奉行であり能吏だった景元は、優れた裁判官であり行政官だったのである。≫ (157ページ) 第5章の 「町奉行所の行政」 がじつに分かりやすい。 天保の改革という社会主義の末期的統制に対して、遠山の金さんが (金さんが同時代人だったというのがまた驚きだけどね!) いかに現実主義・人道主義を掲げて応戦したか。 寄席も芝居小屋も株仲間も止めてしまえという、経済原理無視の緊縮マニアの水野忠邦に、深い嫌悪を覚える。それに堂々応戦した遠山景元がすがすがしい。 お白洲の桜吹雪もいいが、渋面の小沢一郎ばりの水野忠邦に決然として対立する遠山景元を政治ドラマとして描いても、じゅうぶんに視聴率が取れるのではないか。 『泰平のしくみ 江戸の行政と社会』 藤田 覚(さとる)著 (岩波書店、平成24年刊) 本書はなかなか岩波本らしからぬ名著で、徳川時代の幕政が思いのほか専制とはほど遠く、利害関係者の意見を逐一聞いては、幕府の短期的な利害得失にこだわらず、穏便な策を講じていたことを、当時の文書も豊富に引用しながら解説している。 広範に意見を聴取し、周到な根回しを行う文化は、今日に通底していて、だから納得感がある。民間の声に耳を傾ける政権であったということだ。 ≪目安箱とは、非合法の越訴(おっそ)が多発したので直訴する場を設けた、という趣旨のもの≫ (59ページ) など、いちいち光る記述がある。 ≪江戸町人の心情や人心の落ちつき具合を重視して行政を行おうとする町奉行遠山景元に、町奉行所の行政の到達点を見ることができるのではないか。このような町奉行の存在こそ、泰平の江戸時代を生みだした理由の一つである。≫ (201~202ページ) 本書で唯一、岩波書店らしいのは、第4章第4節の 「将軍と天皇の茶番劇」 という題目だ。 徳川家斉(いえなり)が太政大臣への昇進を得た際の手続きの機微を語った一節。 本書に出てくる “茶番劇” は数多いのだが、皇室が関わっている本節のみ、あからさまに茶番劇を云々するところが、じつに嫌味であり、岩波書店の面目躍如である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Oct 15, 2012 03:49:47 AM
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