テーマ:読書(8504)
カテゴリ:読 書 録
岩波書店が出した歴史書ということで、警戒心をもって読みだした本書だが、なんのなんの、みごとな名著だった。
知識人にとっては、司馬遼太郎の幕末小説なんぞより百倍おもしろい。 『幕末維新変革史・上』 宮地正人 著 (岩波書店、平成24年刊) 航海術の発達で欧米列強がひたひたと東アジアに押し寄せはじめるところから、阿片戦争の情報を日本の知識層がどのように得てどう考えていたか、漂流民帰国が世界知識をどのようにもたらしたかなど、たんなる無知蒙昧の徒ではなかった当時の日本人を描くことにはじまる。 おなじく幕府といい、水戸藩といい、薩摩藩といっても、内部の構造的対立は複雑だ。 一筋縄ではいかない現実の複雑さを、当時のさまざまな公文書や書信からの抜粋で示す。 世の中って、そういうふうに動くよね、という納得感をくれる本だ。 安政の大獄から薩英戦争、下関戦争、長州征伐、孝明天皇による条約勅許で上巻は終わっている。下巻は戊辰戦争から西南戦争、自由民権思想の萌芽を語るという。早く読みたい! * ≪百姓身分の者は苗字を有していても公式には使用できず≫ (33ページ) という記述に、あぁ、そういうことだったのかと、そういう端々の知が、またよろしい。 ≪幕末維新期を理解する上で「躓きの石」となっている日本人の思考パターンは、すべてのことがらをイデオロギー的に判断しようとすることである。 「攘夷主義者だったのに変り身が早かった」 とか、 「攘夷主義者だったのに、その思想が深くなかったから変身できた」 とか、この説明のやり方が現在でも平然と通用している。 著者は一貫してこのような説明の仕方に反対してきた。≫ (126ページ) という著者・宮地正人さんの言は、けっしてハッタリではない。 当時の日本人の情動への愛がある。 第一次長州征伐のとき攻める側の総督府参謀だった西郷隆盛が、いかに長州の急進派と直接に対話し、理解し、説得したか。そしてそれを通じて長州側と薩摩側の心情関係が急速に変化したことの記述 (433ページ) も興味深い。 薩長同盟の淵源が、ここにあったということだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Nov 18, 2012 09:37:26 PM
コメント(0) | コメントを書く
[読 書 録] カテゴリの最新記事
|
|