テーマ:中国&台湾(3303)
カテゴリ:読 書 録
国家の経済・産業の運営について書いた部分が興味深い。だから大元ウスルの南宋との抗争からシナ全域掌握、今日の北京の原型である「大都」の建設に至る下巻の記述は読ませる。
反面、中央アジアについて書いた部分は経済や産業についての記述がなく、戦争史に終始していてつまらない。(上巻の後半まるごとと、下巻のごく一部がこれにあたる。) 杉山正明著『モンゴル帝国の興亡・下 世界経営の時代』 (講談社現代新書、平成8年刊) ≪クビライ政権には、数多くの漢族たちが立ち働いていた。能力主義・実績主義の原則は、人種や文明の違いを超えていた。口先だけの書生論や、美辞麗句で飾り立てた文人官僚による「党争」は少なかった。学生たちをも巻き込んで、嫉妬と足引きを際限なく繰り返している臨安の南宋政界よりは、はるかに健全であった。≫ (95頁) 正面切って戦うも、いったん負ければ臨機応変の生き方をして信頼を勝ち得つつ実をとる漢人と異なり、高麗人は面従腹背と約束不履行でもって自己を保持しようとした。モンゴル人らも信頼のおけぬ高麗人を面倒に思ったか、元朝の中央政権内に高麗人を取り込むことはせず、突き放しつつ隷属させる形をとった。 高麗人の行動は、今日の朝鮮人・韓国人の行動パターンにそのまま通じるものがある。 何をもって評価するかだが、半島人のこの強烈な面従腹背ぶりが結果的に、隷属しつつも国家独立を維持するのに役立ったことは事実だろう。 ≪1218年、旧金朝治下のキタン軍団のうち独立志向派の勢力 (「黒契丹(くろきったん)」と呼ばれた) が、マンチュリアを経て高麗国に乱入した。それを、モンゴル・高麗の協同で撃滅した。 〔中略〕 チンギスがまだ西征から帰還しない1224年の末、モンゴル側の使節が殺害された。これから7年間、信使の往来が絶えた。 〔中略〕 新帝となったオゴデイは、かつての黒契丹鎮定時における旧約の履行を迫るため、サルタク・コルチを将とする一軍を高麗国に向かわせた。1231年のことである。 〔中略〕 サルタク指揮下の部隊は、一気に進攻した。不意をつかれた高麗国は、全土に72人のダルガチ、すなわちモンゴル側の目付を置く条件を呑んで、撤退を得た。 だが、突然の危機を回避した高麗側は、巻き返しに転じた。モンゴル側の動きを適当にあしらいつつ用意を整えた翌年6月、突如、くだんのダルガチ72人を皆殺しにしたうえ、王廷・政府あげて江華島に遷都した。 〔中略〕 抗戦は異様なほど長く続いた。 〔中略〕 最後に南の済州島において反モンゴルの抗戦が終熄するまで、前後およそ42年。 〔中略〕 民衆を犠牲にし、半島全体を焦土と化す長期戦を半世紀近くにわたって行うほか、本当にすべはなかったか。≫ (108~110頁) 世界国家モンゴルの言語事情も興味深い。 ≪さまざまな言語が飛び交う中で、モンゴル語は王族共通の言語として、トルコ語とペルシア語は 〔中略〕 国際語として使われた。 〔中略〕 この3つの言葉ができなければ、為政者側に立つ身としては辛いところがあったかもしれない。≫ (200頁) 明の朱元璋すなわち洪武帝の悪辣を著者は繰り返し批判している。シナ文明の破壊者は、意外にもモンゴルではなく漢人・洪武帝であったというべきか。 ≪日本では、朱元璋が「農民」から「天下」をとったこと、そして「野蛮な異民族」から「中華の栄光」を取り戻し「漢族国家」をうちたてたことなどの図式から、彼を極度に美化する傾向がある。 しかし小説ならともかく、現実の朱元璋を冷静・客観に眺めれば、それはとても肯定できない。政権担当者としても、現実から遊離したさまざまな莫迦げた「原理主義」や「思いつき」による諸策を強行し、弾圧・圧制を好む、どうしようもない「帝王」としか言いようがない。 明帝国は、少なくともその初期において、人類史上でも屈指の「暗黒帝国」であった。≫ (219頁) ≪銀を基軸に塩引(=塩と交換可能なクーポン券)・紙幣などを交用して、大がかりに展開したモンゴル時代の経済・通貨システムは、近代西欧型社会でのシステムの先駆として、きわめて注目に値するものであるが、経済運営と通貨管理にまったく無知な洪武政権のもとで急速に後退し、その大半が失われた。 陸海を貫く通商もまた、商業と貿易そのものを憎悪するかのような初期明朝の政権体質のため激しく抑圧されて沈淪(ちんりん)した。そして逆に、社会全体が物々交換による自然経済に近い状態に回帰した。政権・国家は、素朴な農本主義に立脚したうえで、「里甲制(りこうせい)」などによって大多数の農民を土地に張りつけて徹底管理した。モンゴル時代の経済活況は、昔日のものとなった。≫ (232頁) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Jul 19, 2014 02:58:04 PM
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