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カテゴリ:読書
ぺてん師列伝-あるいは制服の研究‐種村季弘
アラスジ:20世紀初頭。ベルリン郊外の駅に降り立った1人の“大尉”が、偶然通りすがった1小隊に奇妙な命令を下す。『我々は、今からケペニック市庁舎に特別出勤をする』と。僅か14名の制服軍人により占拠された市庁舎からは、大金と市長がつれさられ…。“ケペニック事件”他、様々なペテン師たちの姿を紹介している。 先年物故した種村季弘氏の著。 種村氏の本は、澁澤龍彦氏と対で読まれた方も多いのでは。 とかく話題に上りやすかった澁澤氏に比べれば、今1つ知名度は薄かったかも。 かく言う自分も、手持ちの本は2・3冊だし、大昔に図書館でラビリントス (作品集)を流し読みした程度なのだが。 ざっと調べてみたら、予想以上に多い著作に驚く。 フランス文学の澁澤・ドイツ文学の種村、サド侯爵の龍彦・マゾッホの季弘。 近似値を取りながら別の世界を探求していた二つの知性を、同時に触れる事が出来たことは幸せだったのかもしれない。 本書は、“制服”と言う記号に振りまわされる人間の滑稽さを描いている。 ペテンを働く当事者たちですら、制服を纏う事で、思った以上の加速で坂道を雪だるま式に転げ落ちてしまうのだ。 制服、それ自体が存在の証明をなす、魔法の服。 誰しも、警官の制服を見ると何となく身構えるし、看護師の白衣を見ると頼りたくなる。(まぁ、人其々だけど。“コーフンする”なんて反応もあるしw) 究極のカテゴライズアイテムだ。 これさえ着用すれば、しがない靴職人が、権力を行使する軍人にもなれるのである。 この“権威”と言う鍵さえ手に入れば、組織や規則の不備をついてどんな事だってできてしまう。 この辺の人間描写が、軽妙でおかしい。 もう、騙されたくて騙されているとしか思えないような、“制服”の前にアタフタとする人間の愚かにも笑える姿が曝け出されている。 実の処、「制服の研究」と銘打たれているが、実際に制服を着用した大きな詐欺を働いているのはケペニック事件くらいで、他の事件は、制服そのものが大きな役割を果たしていない。 が、“制服を着用しない事が制服”であると言う、いささかねじれた身分の人間を詐称しているのだから、全く関係の無い訳でもない。 ねじれた身分詐称とは、本来なら制服(軍服)を着用している筈の王・皇族が、お忍びで潜行している人物を騙っている事。 つまり、この場合も、直接身にはしていないが、その背後には巨大な制服が守護しているのである。国家と言う制服が。 いずれにせよ、その幻の制服を着る者自身には、中身は必要ない。 いや、形すらない者だからこそ、制服という鍵に合わせて入り込む事が出来るのだ。 カラッポの存在が、制服によって黒白と色を変え、オセロをする。 駒はカタコトと音を立てて布陣を広げて行くけど、ふとしたミスが元で最後には全て覆される。 そして、駒を取り払われた盤上には何も残らぬように、制服を剥ぎ取られたペテン師たちは、またカラッポの存在に戻る。 昨今暗躍するオレオレ詐欺は、このカラッポのオセロたちの遠い末裔だが、遥かに矮小だ。 それでも、実際に見ずしても警察や医者の肩書きの前に騙される人間がいるという事は、権威への追従と人間の弱さを感じさせられてしまう。 何百年経っても、人間の蒙昧さは変わるものではないらしい。 劃して、カラッポのオセロは延々と続けられるのである。 ぺてん行為が仕掛けられていく過程、それに躍らされる人々の姿の滑稽さ。 簡明な文章で軽快に語られているので、読みやすい本である。 ペテン・詐欺に興味のある方は、御一読を。(ってどんな人やw) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年09月08日 01時40分32秒
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