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カテゴリ:読書
花曝れ首 赤江瀑 講談社文庫
アラスジ:篠子は陽曝しの山道を歩いている。独りで…いいや、3人で。春之助と秋童、二人の若衆の気配が、常に篠子と共にあった。この化野‐あだしの‐では。信じていた男に思いも拠らぬ形で裏切られた篠子にとっては、ふたたりの妖かしと過ごす時間だけが、癒されるものであった。だが、江戸の昔、二人の若衆が一人の男を取り合って起きた惨劇が語られ…。表題作『花曝れ首』他、全5短編を収録。 ひぃ、日記をもう1つ更新しようとしたらフリーズ。 折角書いたのに、消えてしまった。 いい加減、PCメンテナンスしなきゃと思いつつ放置。 でも、根性でリライトして再投稿してみる。 こう言う根性だけは、何故かあるのだw 閑話休題。 100件登録記念に、思い入れの深い本を読み返してみた。 少し大袈裟に言えば、この本で、“私”と言うものが方向付けられてしまったのかもしれない。 まぁ、少なくとも、現在に至る趣味趣向に、大きな影響力を及ぼした一冊である事は確か。 赤江瀑<あかえ ばく> 知る人ぞ知る、と言った小説家。 人口に膾炙する作家ではないが、好きな者には堪らない麻薬のような作品を生み出す。 いや、麻薬と言うより媚薬か。 この本を見つけた時の事は、遥か昔の事なのに、今でも鮮やかに覚えている。 片田舎ゆえ自宅の近隣に書店がなく、通学の折に街に出て本を物色するのが、楽しくて仕方がなかった時期があった。 保守的な家に育った為、幼い頃には漫画の類も与えてもらえず、恥ずかしながら高校に入るまで児童文学全集くらいしか読むものがなかったのだ。 (因みに、図書館も自転車ですら通えない遠さだった。トホホ) あ、思い出した。でも、何故か、徳川家康だけは全巻揃っていて読破したんだっけw そんな訳で本に飢えていた私は、少ない小遣いを遣り繰りして、手探り状態で本を買い集めていた或る日の事。 寄り道して、隣町の大きな書店でゆっくりと書棚を眺めていた時、この不思議なタイトルの本が目に飛び込んできた。 と言うか、光を放っていた感じ。 棚から引き出してみると、更に妖しいジュサブロー人形の表紙。 目次に並ぶタイトルは、『恋怨にて候』『ホルンフェルスの断崖』と禍禍しさすら感じさせる変わったものだった。 確か、霙まじりの寒い日だったと思う。 紅くなった指先で、夢中になってページを捲った記憶が、今でもまざまざと思い出される。 以来、赤江に始まり、中井英夫や澁澤龍彦と言った、影の文学にずっぽりと嵌ってしまったのだった。 うーん、若い頃に嵌りがちなパターンを見事に踏襲していた訳だw と、また長い前振りで再び閑話休題。 この『花曝れ首』は、ミステリ仕立てだったり時代物だったりと、多様な作品が愉しめる。 全てを貫いているのが、強烈な赤江の美意識。 耽美、という言葉を体現する作家がいるとしたら、それは赤江瀑の事だと思う。 赤江の作品を読んでいると、むせるほど濃厚な蜜に泳いでいる心持ちになる。 甘さは舌を焼き、濃密さに動きを封じられ、気がつくとその蜜の底に沈んでいる。 光を封じこめたような琥珀の蜜を透かしてみる世界は、歪み、美しい。 “少し苦しい。でも苦しいことは好きだ。”と言ったのは、赤江作品の登場人物だが、その科白がそのまま此方の気持ちになる。 これだけ陶酔させる作家は、そうは居ない。 赤江は元々シナリオ畑の人間だったので、物語を視覚的に表現するのに長けている。 台詞回しも独特な芝居めいたもので、それが一層の酩酊感を際立たせている。 また、取扱う題材も幅広く、飽きさせない。 この5篇だけでも、江戸時代の色子制度、鶴屋南北、染色、インドネシアの影絵人形、熱帯魚と、一風変わった題材を見事なまでに赤江蜜で溶かしている。 うーん、思い入れが深過ぎて上手く言えないなぁ。 兎に角、独自の世界観を持った作家なのだ。 この表題作である『花曝れ首』は、マイ赤江ベストの1・2を争う作品。 人を愛するという煉獄を、見事に描いていると思う。 妖かしどもの、なんと艶やかでなんと哀しい事か。 激情と抑止が絶妙に効いた構成が、美しい文章と相俟って、物語を際立たせている。 掌を一閃して、虚空から闇を掴み取るような、と言ったら良いか。 一瞬にして、物語の中に、読者まで塗り込められてしまうような感じだ。 「地獄が、怖うおすのんか?」問いかけられれば、怖い。 が、「落ちとみやす」と言われずしても、気がつけば落ちる心積もりになってしまっている。 これが、赤江魔力なのだろう。 と言っても、こればかりは読まねば判って頂けまい。読んでも、受け入れられぬ人も多いだろうなぁ。 泉鏡花などが好きな人なら、ご理解頂けるかと思う。 久々に読んだ赤江の本は、長い年月を経てもなお、その媚薬の力を失っていなかった。 酔える者は幸せだ。 今ひとたび、陶酔の蜜の海に、浸ってみよう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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