ニーハオ中国

抗がん剤を打ってからほんの数日間で、
げっそりと変わり果てた姿になってしまった義母。

それでも抗がん剤を打って9日目ぐらいから、
ほんの少し食欲が出てきたようで、
つばめが鶏肉と野菜を細かく刻んで入れた
茶わん蒸しを作って届けると、
全部食べたという話。
それから毎日、中身を変えた茶わん蒸しを
1個ずつ作って届けるようになった。
きっとこれが中国の病人食なのだろう、
毎日薄い粟のお粥ばかり食べさせられていた義母が
ある日、米のお粥が食べたいと言い出した。

つばめが前日に作って届けていた
ナツメ粥を鍋で温めて出すと、これまたペロリ。
中国の粥は、「飲む」というだけあって、
粟粥でも米粥でも、
お湯に米粒が沈んでいるという感じの薄さなのだが、
つばめが作ったのは、日本式の粘りのある白粥に
皮をむいてやわらかくゆでて種を取った
ナツメを入れたもの。
これが義母にはちょうどよかったようだ。
1階の親戚たちは、つばめが届けたものを、
義母に食べさせていないふしがあったが、
ナツメ粥を食べてくれたことに自信を得たつばめは、
一日三食、毎回あれこれ作っては、
義母に届けるようになった。

かつおだしの絹ごし豆腐スープ、
白粥＆卵の黄身を味付けしてつぶしたもの、
軟飯で作ったゆかりおにぎり、おかか＆海苔おにぎり
野菜と肉団子の煮込みうどん、
冬瓜と肉団子のワンタンスープ

キウイのゼリー、
小さく切ったふわふわスポンジケーキに
ヨーグルトをかけ刻んだフルーツを載せたもの、
干し葡萄入り蒸しパン、
マヨ卵と刻みトマトのサンドイッチ、
ポテトサラダ
蒸し長芋のブルーベリーソースがけ
煮込み牛肉を刻んでゼラチンで固めたもの

などなど。
離乳食を作る要領で、
口当たりがよいようにつぶしたり、
とろみをつけたり、
小さく切って食べやすくしたりすると、
義母は喜んで食べてくれた。
つばめは普段料理をしていなかったが、
子供の離乳食だけは作っていたので、
口当たりのよいものを少量作るのには、
結構慣れていた。

それにしても、
元気な時の義母なら、日本食や洋食めいたものなど、
見ただけで口にしようとしなかったものを
好んで食べたのが、意外だった。
義母の親戚たちが作る食事は受け付けないのである。

いや、ほんとは中華を食べたかったのかもしれないけど、
つばめの作る食べ物が食べやすかったので、
味はともかく、それを食べるしかなかったのかも
しれない。

量も離乳食並みだったので、
たくさん食べたとはいえないが、
とにかく、食べ物を口にしてくれるようになったことが
うれしくて、毎日三食、頭をひねっては、
栄養があってバラエティーに富んだ食事を
心がけて作った。

「食べたいものがあったら、何でも言ってください。
　できるだけ努力して作りますから」

と言うと、

「お手数かけるわね」

と一言。お手数なんて、
お義母さんは私たちのために
何年間も毎日毎晩、
おいしいご飯を作り続けてくれたのに。。。
と、思わず涙が出そうになって、
そそくさと部屋を出た。


つづく。