屋上の手すりから地面まで伸びた、
括ったカーテンのような布を伝って昇らなくてはならない。
セメントの校舎の屋上まで。
そして、屋上で時間割を確認しなければならない。
よっ、と到着したその時に、
壁面側に向き直った私の視界ぎりぎり左端から
飛び降りる男がいた。
思わずあっと声を上げたら
下から妙に派手な音が聞こえた。
男は私の声に驚いて狙いを外し、
途中の、渡り廊下か何かの屋根にぶつかって助かってしまったのだ。
怒りと恥とに血相を変えた男が、
狂ったようになってこちらに昇ってくるのがわかる。
静かに絶望しているのではなく、
結局は人の目しか気にしていない彼のような男にとって、
自殺という派手な演出は一世一代の見せ場であり、
ぎりぎり一回分の思い切りしか用意していなかった筈で、
そうして間抜けな姿を見られて、かといって
2回目に挑むまでの本質的な動機などない
いじらしいほど同情を誘うその失態への動揺を
どこにぶつければいいか分かるほどの頭も無い筈なので
私は素直に「悪いことしたなあ」と思ってはいる。
だが、そんな奴がムキになると厄介なのだ。
経験が無いから、免疫が無いから、余裕が無いから手加減を知らない。
自罰的ではなく、どこまでも他罰的な類の人間だ。
恐ろしい、と私の足が震える。
どうにか行き違いになるようにと、慌てて私は、
またカーテンのようなのを伝って地面に降りる。
しまった、と思う。
私はまだ、屋上の時間割に目を通していない。
また昇らなくてはならいのだ。
何がどうあれ。
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Last updated
2010/07/06 01:17:49 AM
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