霜降の連続講座 その22 5,000円の壁をどう超える
霜降の連続講座 その22 5,000円の壁をどう超える~過去の「日経レストラン」連載より5,000円の壁をどう超える単純値上げは危険、今までと違うアイテムのシェアを広げろ! 「客単価をあげたいのですが、どうしたらいいですか?」居酒屋を経営しているかたから、こんな質問をいただくことがあります。今回は、客単価を長期的にあげる方法についてお話ししたいと思います。 消費活動は大きく分けて、“買い出し”と“買い物”の二つのパターンがあります。「今日は、豆腐が切れているな。卵が切れているなあ」という感じで生活必需品の補充や調達に行きますね。日々の生活で、今まさに必要なものをスーパーなどに買いに行く、これが買い出しです。一方、その対極にあるのが、いわゆる“お買い物”で、日々の生活必需品の補充ではなく、楽しみのため、購買活動に出かけます。日本語ですと、“買い出し”という言葉と“買い物”という言葉が似ていて混同されているケースが多いですが、まったく意味合いが違います。英語にするとわかりやすくて、“買い出し”は“buying”、“買い物”が“shopping”です。 “shopping”という言葉の背景には、ハレ的な要素があり、楽しみや息抜きなど少し大げさな表現ですが、日常生活から解放的な意味合いが存在します。たとえば、今日必要なものを買うというのであれば、「塩は1パック100円の食塩でいいや」とか、「砂糖は上白糖が100円だ」というコスト志向が強い買い出しと形態の消費行動をとります。一方、「今日は、大久保さんが遊びに来るから、ちょっとおいしい料理を作ろう」という購買動機が背景にあったらどうでしょう。そうなると、「工業的なプロセスで精製された食塩よりも、大久保さんが好きな“海の精”のほうがいいな」と、価格よりも価値重視で購買活動をするでしょう。そして、もっと前から大久保がくることがわかっていれば、いろいろ考えて、ちょっと遠くに行ってでも、買い物に出かけますね。同じ塩でもとbuying”にも“shopping”にもなるのです。このことを踏まえて店づくりをして値付けをしなくてはいけません。 私は最近、味噌を仕込んでおります。先日、友人のフランソワ・クープランが京都の南山城村に古民家を買ったので、彼に新築祝いとして数か月前に仕込んでおいた味噌を持参しましたが、たいへん喜んでくれました。人に喜んいただくために労を惜しまない、まさしく“ご馳走”の言葉の由来ですね。一方、経営が厳しくなるとより、仕入れは買い出しの形態に向かいます。これが商品自体の魅力を削いでいくことも多いので、注意が必要です。客単価が上げるには“shopping”に持ち込め お料理が評価される時というのは、「いやー、凄いな。今日は1万円のコースを頼んでくれた」と言う場面がおこるでしょう。そうなると、「1万円で、大久保さんに喜んでもらうために」という起点で、何を出そうか、どんな食材を買おうかを考え、材を吟味するはずです。 しかし、話は単純ではありません。この喜んでいただいた“大久保”さんに合わせると他のお客様は喜ばなくなります。つまり、あるお客様に喜んでいただいたからと言って、裾野にある単価を絞り込むと、その価格帯を支持していたお客様からみると“単純な値上げ”になってしまいます。 一般的に外食では、若い人にとっては支払総額3,000円、中高年のサラリーマンにとっては支払総額5,000円の壁があります。例えば5,000円ぴったりと、5,200円の支払い額には、別に料理やサービス悪くなったと思いがあるわけではなくても5,000円を超えると、突然、客足が鈍くなったり、いきなり評価が低くなったりします。人にはそれぞれの価値観があり、単純な値上げをすると、なんとなく支払総額が腑に落ちないことが原因と言えるでしょう。 では、既存客を失わない客単価をあげるにはどうしたらいいでしょうか。答えは、お客様が新しい価値を見出し、納得して増額していただくことです。 以前御紹介いたしました会員の居酒屋を例に説明しましょう。 その店からは店の特徴を伝え、お客様や求人の応募者に価値を感じていただきたいとホームページの制作のご縁をいただいたその時の客単価が5,000円くらいでした。 まず、店に伺い、テーブルの上にあったワインリストのような日本酒リストに私は着目しました。そして、スタッフ全員が日本酒愛好家であるという経営資源が強みになると第一印象でわかりました。10年くらい前の多くの居酒屋は、“とりあえずビール”という言葉があるように、居酒屋におけるビールのシェアが高かったわけです。しかし、ビールを売ろうとすると得てして価格競争になってしまいます。そこで、私は「○○は日本酒の店です」とホームページや食べログの店舗ページを見せることにしました。そして、見込み客を“日本酒を目的に来店されるお客様”や“日本酒を飲んでみたいお客様”に絞り込みました。また、もともと干物やギンダラの西京漬けがウリでしたが、フォアグラを西京味噌漬けにしたり、“ボンレス鱧”を看板料理に加え魚を充実したり、お酒に合うアイテムを加えて、ワン・グレード上の日本酒居酒屋に徐々にポジショニングニングしていきました。ランチをやめて、料理人も増やし、手間をかけ、料理のクウォリティもあげました。そして、新たに加えた料理や、日本酒は徐々に販売数を増やし、料理のクオリティアップと日本酒の販売数が伸びた分の客単価がアップしました。日本酒が盛り上げってきた昨今、客単価は7,000円~10,000円になっております。さらに、10坪の店舗の年商も徐々に上がり5000万円を超えるようになりました。 客単価5000円を超えるには、店の経営資源を活かして、新しいカテゴリーや今までそれほど売れてなかったアイテムを見直し、販売数量を伸ばすことで客単価アップ、売上アップしていくのです。決して、単純な値上げや、むりやりの推奨販売ではないのです。