商法H16-1
1 設問前段について(1) 株主Bは1000円前後で取引されていた株式が50円で大量に第三者割当の方法で発行されたことで、株価下落による経済的損害、支配比率の低下という損害を被っている。 (そこで) Bは新株発行無効の訴えができるか(280条ノ15)。同条に無効事由が規定されていないため、本問発行に無効事由があるかが問題となる。 アa(まず) 本件新株発行は株主総会決議を経ていないことから、「特ニ有利ナル発行価額」として株主総会決議が必要な場合(280条ノ2第2項)といえるか b(この点) 旧株主の利益と円滑な資金調達の調和の観点から、「特ニ有利ナル発行価額」とは通常新株を発行する際の公正な発行価額と比較して特に低い価額であり、公正な発行価額とは株式の時価を基本として決定すべきと考える。 c(本問では)1000円前後で取引されていた株式が50円で発行されているので、公正価額に比べて特に有利な価額にあたる イa(とすると)本件新株発行は株主総会の特別決議が必要であるにもかかわらず、これを経ていない。→この瑕疵は無効事由にあたるか(280条ノ15) b(この点) 新株発行は、会社組織を人的物的に拡大する組織法上の行為であるが、授権資本制度の下、第三者との関係では資金調達手段として業務執行行為に準ずる性格を持つ。 (よって) 取引安全との調和の観点から、無効原因をできるだけ限定すべきであり、取引の安全と株主の利益とを実質的に衡量して無効原因にあたるか否か判断すべきである。 c(確かに) 株価下落による経済的損害、支配比率の低下という損害は著しい。 (しかし) 株主総会決議の有無は外部からは知り難い。 (また) 大量の株式を無効にすることによる社会的影響は著しい。 (さらには)新株発行事項が公示されており、株主は事前に差止請求(280条ノ10)をなせたはずである。 (よって) 本件瑕疵は無効事由にあたらないと考える ウ (よって) 株主Bによる新株発行無効の訴えは認められない (2)ア(次に) 株主Bは金銭的損害の填補を図るため、266条1項5号の取締役の責任を株主代表訴訟(267条)により追求することが考えられる。 イ (また) QがAと通謀し株式を引き受けた者ならば、代表訴訟により発行価額との差額相当額の支払(280条ノ1第1項)を求めうる(同条2項) ウ (さらに) 株主Bは266条ノ3第1項に基づいてAに対し損害賠償を請求を求めることが考えられる。 (この点) 同条は第三者を特に保護するための法定責任を定めたものであることから、職務懈怠について代表取締役の悪意重過失があれば足り、「第三者」には株主も含まれると考える (そして) Aには280条ノ2第2項に違反して新株発行をなした点で、任務懈怠について、悪意重過失が認められる。 (よって) 株主Bは266条ノ3第1項に基づいてAに対し損害賠償請求できる エ (また) 本件新株発行は取締役会決議に基づくものであるので、他の取締役に対してもAと連帯して損害賠償責任を追及できる(266条ノ3第3項、266条2項、3項) (3) (この他) 代表取締役Aらの解任を株主総会に求め、解任決議が否決された場合、少数株主権の行使として取締役解任の訴えを提起できる(257条3項)2 設問後段について (1)ア 株主Bは、新株発行無効の訴えを提起できるか。前段同様問題となる イ (この点) 新株発行事項の公示(288条ノ3ノ2)は新株発行差止の請求(280条ノ10)の機会を保障するために不可欠の前提である。 (そして) 差止の請求は、既存株主が違法な新株発行から自己の利益を守るための数少ない実効的な手段である。 (よって) 新株発行事項の公示欠如は、取引安全を上回る程度に重大な瑕疵であり、無効原因となると解する。 ウ (従って) この場合、Bは新株発行無効の訴えを提起しうると考える。 (2) (そして)前段同様、Aに対し266条1項5号の取締役の責任を株主代表訴訟(267条)により追求したり、A及び他の取締役に損害賠償を請求(266条ノ3第1項、3項、266条2項、3項)したり、取締役解任の訴えを提起できる(257条3項) 以上