『アラブの春』に関連する本
『「アラブの春」の正体』(重信メイ 角川新書)を読んで後、関連する本を読んだ。 『混迷するシリア』青山弘之 岩波書店 2012年 「思い込み」を揺さぶられる本であった。まず第一章が、「バッシャール・アサド政権は『独裁体制』か?」。「えっ、独裁じゃないの・・・」と読み進むと、なるほど単純に「独裁政権」と斬って捨てられない側面を著者は提示する。 まず、「モザイク社会としてのシリア」という中見出しから記述は始まる。 宗教、宗派で見ると、イスラーム教スンナ派(76,31%)、アラウィ―派(12,5%)、キリスト教諸派(7,66%)。民族、エスニック集団としては、アラブ人(90,22%)、クルド人(8%)、アルメニア人(1,5%)、コーカサス人(0,25%)、ユダヤ人(0,03%)。 政権の宗派的構成を見ると、確かにアラウィ―派の数は人口比に比べて高い。しかし、スンナ派の高官も、シーア派の高官も存在している。 著者は、p22以下で、「亀裂操作」という概念で、シリアの政権の権力基盤を説明している。亀裂操作とは「宗教・宗派、民族性・エスニシティ、地域、経済的機能、階級に起因する社会的亀裂に何らかの刺激を与える施策」であり、「権威主義を本質とする支配体制への『民主的』『多元的』性格」を付与し、「政権を脅かす可能性のある社会集団内の亀裂の強調や同集団の分断を通じて支配力の相対的な強化と支持基盤の拡大を目指す」ものと説明されている。 この方式を、著者は、「同政権に具現されたシリアの歴史や現実」の上に築かれたものとしている。 P50で、アサド大統領が2011年10月20日にロシア国営放送のインタビューに答えたシリアの現状が引用されている。 「シリアは、地理的、地政学的、歴史的側面で特別な地位を占めており、文化、宗教、宗派、エスニシティなど、中東のほとんどすべての構成要素の結節点である。それはあたかも活断層であり、この活断層の安定を揺るがそうとするいかなる試みも、大地震をもたらし、地域全体がその被害を受けることになるだろう」 つまり、反体制勢力や、諸外国がアサド政権の打倒を目指すのであれば、「東アラブ地域全体の安全保障にどのような衝撃を与えるかを考慮し」「シリアを地政学的にいかに位置づけるかというビジョンを周辺諸国や国際社会に示す必要があった」と著者は結論付ける。 シリアに波及した「アラブの春」は、シリア社会の混迷を深めるだけに終わっている。反体制勢力は内部分裂に陥り、諸外国の介入は、改革を求めるシリアの人々を置き去りにしている。 シリア国民の日常生活の回復に向けての転換が行われない限り、混迷はますます深まり、権力の空白地帯は広がると著者は予測している。イスラム国拡大の責任を負っているのは、「活断層」を何のビジョンも持たずに揺り動かし、シリア国民の真に求めるものに目を向けず、社会改革の方向を「ハイジャック」したすべての人々であるという事になる。130ページほどの本であるが、内容は濃い。