自給の大切さ
イギリスの「穀物法」廃止(1846年)を教えていた時に、ふと、高校生の時の地理の授業のことを思い出した。穀物法とは、1815年に制定された法律で、輸入穀物に対して高率の関税を課すことを決定した法律である。国内の穀物産業を守るための法律で、主として大地主の利益に沿ったものと説明されている。その後、大地主たちは工業生産に投資することにより大きな利益を見出して、「自由貿易」に反する穀物法廃止賛成に転換している。「自由貿易」路線は、当時最強の工業国家であったイギリスにとっては当然の路線であり、東インド会社の商業活動全面停止(1833年)、対中国貿易独占権の廃止(1834年)などがその流れの中にある。 当然のことながら、イギリスの穀物自給率は低下する。不確かな記憶だが、私が高校生の時に、50%を切っていたと思う。で、地理の先生は以下のようにおっしゃったと記憶している。 「イギリスはね、穀物自給率が50%を切っているんですよ。こんな国は今に滅びますね。ははは。」 なぜか、最後の「ははは」というのが強く印象に残っている。 さて、それから、50年ちょっと経った。 農林水産省のHPから引用すると、以下のように記してある。 2000年の食料自給率では、イギリス74%、フランス132%、アメリカ125%、オーストラリア280%となっており、OECD(経済協力開発機構)加盟の30か国中、日本は29位となっています。山岳地が少なく国土の約7割を農用地面積が占めるイギリスが約30年間で食料自給率を25%向上させた理由は、 1.2度の世界大戦で深刻な食料不足に陥った経験から、英国民の間に「食料は国内生産でまかなうことが重要」との認識が醸成され、これに基づいた農業施策が推進されてきたこと。 2.イギリスの気候風土の中で長い年月をかけて育まれた食生活に著しい変化がなかったことは、ライフスタイルの多様化等から食生活が大きく変化し、気候風土に適したコメの消費が減少した我が国の場合と異なること。 3.イギリスの気候風土に適した農産物である小麦の増産により、穀物自給率(飼料用を含む)が大幅に向上し、100%を上回る水準に達するまでになったこと等の要因があります。 では、日本の場合はどうか?同じ農林水産省のHPから引用する。 総合食料自給率 食料全体について単位を揃えて計算した自給率として、供給熱量(カロリー)ベース、生産額ベースの2とおりの総合食料自給率を算出しています。畜産物については、輸入した飼料を使って国内で生産した分は、総合食料自給率における国産には算入していません。 カロリーベース総合食料自給率 カロリーベース総合食料自給率は、基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)に着目して、国民に供給される熱量(総供給熱量)に対する国内生産の割合を示す指標です。 カロリーベース総合食料自給率(令和元年度) =1人1日当たり国産供給熱量(918kcal)/1人1日当たり供給熱量(2,426kcal) =38% 分子及び分母の供給熱量は、「日本食品標準成分表2015」に基づき、各品目の重量を熱量(カロリー)に換算したうえで、それらを足し上げて算出しています。 生産額ベース総合食料自給率 生産額ベース総合食料自給率は、経済的価値に着目して、国民に供給される食料の生産額(食料の国内消費仕向額)に対する国内生産の割合を示す指標です。 生産額ベース総合食料自給率(令和元年度) =食料の国内生産額(10.3兆円)/食料の国内消費仕向額(15.8兆円) =66% 分子及び分母の金額は、「生産農業所得統計」の農家庭先価格等に基づき、各品目の重量を金額に換算したうえで、それらを足し上げて算出しています。 食料国産率 食料国産率は、我が国畜産業が輸入飼料を多く用いて高品質な畜産物を生産している実態に着目し、我が国の食料安全保障の状況を評価する総合食料自給率とともに、飼料が国産か輸入かにかかわらず、畜産業の活動を反映し、国内生産の状況を評価する指標です。令和2年3月に閣議決定された食料・農業・農村基本計画で位置付けられました。総合食料自給率が飼料自給率を反映しているのに対し、食料国産率では飼料自給率を反映せずに算出しています。 カロリーベース食料国産率(令和元年度) =1人1日当たり国産供給熱量(1,137kcal)/1人1日当たり供給熱量(2,426kcal) =47% 生産額ベース食料国産率(令和元年度) =食料の国内生産額(10.9兆円)/食料の国内消費仕向額(15.8兆円) =69% 「カロリーベース」でいくと、ピンチ。「生産額ベース」で行くと「まだ安心していいですよ」という事になる。 https://smartagri-jp.com/agriculture/156 「SMART AGRI」 を見ると、「カロリーベース、生産額ベースといったデータの基準をどこに定めるか、という議論はあるものの、いま我々が直面しているのは、国レベルでいかに自給自足ができる体制を整えるか、という点は疑いがない。TPPの発効などで日本と世界の垣根がなくなり、安価な物流が可能になるというメリットの裏側には、緊急時に自らの力でどれだけ生活を維持できるかという食料事情が付いてまわる。」という指摘がなされている。 「種子法廃止の問題点」というコラムもある。 今回のコロナ禍の中で、NHKは、4人の人物へのインタビューを行っている。ジャレド・ダイヤモンド、ナオミ・クライン、マリアナ・マッカート、エマニュエル・トッド。録画を見ながらメモを取った。 トッドの指摘の一部を紹介する。 2007年に設立されたテロや感染症と言った緊急事態に対処する組織として、フランスにはEDRUSという組織があった。マスクの備蓄などもやっていたのだが、インフルエンザの影響が思ったほどではなかったので、予算が2009年の580億ドルから2014年の50億円に減らされ、7億枚あったマスクの備蓄もなくなり、マスクを製造していた会社も中国製品との価格競争に敗れて倒産した。EDRUSも廃止された。結局、パンデミックが始まったときに、フランスの医療関係者は、防護服もマスクもないという状態で感染症と立ち向かわねばならないという状態に置かれることになった。 日本でも同じような状態が起きた。中国に生産工場を置いていたマスクは、一枚も日本に入ってこなくなった。中国政府が、「自国優先政策」をとった結果だ。防護服も、N95マスクもすべて中国で生産されていた。 ダイヤモンドのインタビューはまた見返していないのだが、後者3人はすべて「国家」を問題にしている。クラインは、「災害に乗じて民主的ルールを破壊しようとする国家に気を付けなければならない」と述べ、マッツカートは、「公的資金を投じることと引き換えに、企業に対して国は、SDGsの目標を達成させるように促さなければならない」と述べている。 少し腰を据えて4人の論者から学びたい。