『2040年のエネルギー覇権 ガラパゴス化する日本』
ある方から刺激を受けて、原発と再生可能エネルギーについて学んでみようかなと思った。どうもこういう刺激をいただかないと学ばないというのは生来の怠惰な性格からか。ま、学ばないよりいいだろう。 図書館から、以下の本を借りだした。 『2040年のエネルギー覇権 ガラパゴス化する日本』平沼光 日経出版 2018年1月。『ロラン島のエコチャレンジ』ニールセン北村朋子 野草社 2012年5月 『脱原発からその先へ ドイツの市民エネルギー革命』今泉みね子 岩波書店 2013年3月 『ドイツの挑戦 エネルギー大転換の日独比較』吉田文和 日本評論社 2015年12月 『原発大国とモナリザ フランスのエネルギー戦略』竹原あき子 緑風出版 2013年11月。 まず読んでみたのが、『2040年のエネルギー覇権 ガラパゴス化する日本』。 一読してはっきりするのは以下の部分に記してあることだ。 「原子力発電は。事故リスクやビジネスとしての競争力低下、そして放射性廃棄物処理という難しい問題を抱えている。かつての「原子力ルネッサンス」といわれた時期の勢いはなくなり、世界は原子力発電の扱いに悩む時代に入ったと言えるだろう」(P36) 再稼働をしようと言うときに、どこの自治体が引き受けるのか?また、その「自治体」の範囲はどこまでなのか?町か、県か、周辺の県には発言権はないのか? フクシマの事故は、日本人が想像する以上に海外では深刻に受け止められている。そして、再生可能エネルギーへの転換を国家戦略として進めている。トランプがパリ協定からの離脱を宣言して以降のアメリカでは、自治体、州単位での再生可能エネルギーへの転換の取り組みが進められている。P168以降にその実態が報告されているのだが、アメリカの名だたる企業(アップルからグーグル、スタバ等々)が出しているニュースリリースの題名が傑作。「トランプは気にするな。企業はイノベーションとビジネス機会を推進していく」。笑える。 この本を読んでいくうえでの一つのキーワードが、「限界費用」という言葉。P48で以下のように説明してある。 「限界費用とは生産量の増加分1単位当たりの総費用の増加分。・・発電で考える場合、発電量を1単位(1キロワット時)増加させるのに要する増加費用ということになる。火力発電で考えると、発電量を増加させるため火力を焚き増すのに追加する石炭、石油、天然ガスなどが主な限界費用となる。・・・再生エネルギーの場合、発電に必要な風や太陽光、地熱などはいくら使ってもタダであり、限界費用はゼロとなるわけだ」(P48) そして、著者が指摘しているのは、再生可能エネルギーを巡るめざましい技術革新である。 ここまで書いていくと、「日本のガラパゴス化」の内容は推察できる。 かつて世界を席巻していた太陽光発電産業は失速し、風力発電も依然として停滞している。 著者は、政府の方針の不統一さを紹介している。片方で、再生可能エネルギーの比率を2030年には22~24%とし、環境省が2015年に発表した報告書では2030年の再生可能エネルギーの比率を30~35%としている。 「2030年に再生可能エネルギー比率22~24%という日本の目標は先進各国と比べると消極的である。…欧州ではすでに20%から30%の再生可能エネルギー比率は達成されている」(P190) そして政府のこの消極的な姿勢にならうかのように、日本の再生可能エネルギー分野での凋落が目立っている。 日本の課題について著者は以下のように指摘している。 「再生可能エネルギー固定買取(FIT)制度導入以来、日本においても再生可能エネルギーの導入拡大が観られている一方で、その導入の約9割が太陽光発電という偏った状況になっていることや、FIT制度による国民負担の増加などが課題となっている。こういう課題は・・・欧州各国でも生じており、その対策が進められている。・・太陽光発電に偏った導入を是正する必要があり、・・・現状諸外国とくらべて高い日本の再生可能エネルギーコストそのものを低下させる必要がある。例えば、2014年における日本の太陽光パネル価格19,39万円/kW に対して、ドイツ、スペインは12,32万円/kW。太陽光発電の工事費は、日本12,88万円/kWに対してドイツ、スペインは3,41万円/kWとなっている」(P206) 著者は、送電部門の整備、スマートグリッド(次世代送電網)、AIとビッグデータの活用等の施策を提案している。 利権のかたまりとなっている「原子力村」の解体、」、電力会社の利益優先主義などに消費者が気づかないとこの事態は変わらない。 著者は、「ガラパゴスでも進化の努力はなされている」という何とも皮肉な事を書いている。P239。 まず事実を基盤とした透明性の高い議論を、という著者の提言は読むべき価値があると思った。