「マダム貞奴」 レズリー・ダウナー
マダム貞奴ダンナの川上音二郎は「オッペケペ」で有名で古い録音を聞いたような気がするが、貞奴についてはこの本を読むまで、ほとんど知らなかった。むしろ引き合いに出された、サラ・ベルナールのほうがなじみが深い。川上一座に同行し、米国、英国、仏国と回り名声を勝ち得たわけだが、当時の「ジャポニズム」ブームの影響も大きいようだ。芝居よりもむしろ着物で「道成寺」などを踊る姿にもの珍しさも加わり、外国人の目を惹きつけたようだ。当初資金面でも苦労したらしいが、アンドレ・ジッドやイサドラ・ダンカン、ロダンなども絶賛したようだから芸のほうも確かだったんだろう。何葉かの写真も載っているが、表紙の写真を見ても現代人といってもいいくらい魅力的だ。グローバル化などといわれても、閉鎖性の抜けないこの国だが開国後、そう年数もたっていない時期に、海外で芝居を公演するなんていうのは、ずいぶん大胆だ。この貞奴や音二郎に限らず、明治人には面白い人物がけっこういる。このように再評価するのも、自信を失っているような今の日本人には、よい刺激になるのではないかな。