陳腐ではあるけれど
マラソンの沿道にたくさんの観衆が、主催者の小旗片手に応援している。その時に必ず耳にする言葉。「ガンバレーーッ!!」言ってるほうは何も考えず、単純に声援を送っている。もちろん、声援の多くを励みにして走っている選手がほとんどだとは思うけど、なかには、「言われんでも頑張ってるわ!!」って思う選手もいるんじゃないかと、マラソンを見るたびに思ってしまう。セリエBのヴィチェンツァに所属するフリオ・ゴンザレス選手が、左腕を切断した。昨年12月22日、空港に向かっていたゴンザレス選手は自動車の交通事故に巻き込まれ左肩に重傷を負った。事故から1ヶ月が経ったが怪我の状態があまりに酷く、手術で左腕を切断するしか方法が残されていなかったそうだ。ゴンザレス選手は、今シーズン15試合に出場し、クラブ得点王の8ゴールを挙げる活躍。またパラグアイ代表としてアテネオリンピックにも出場し、銀メダルを獲得。半年後のワールドカップ出場を目指していた中での事故だった。左腕を切断したことで、サッカー選手としてのキャリアは終わってしまった。さらには日常生活にも支障をきたすことになってしまった。医学の進歩で義手を付けるんやろうけど、それでも、それは自分の腕であって、自分の腕じゃない。両手両足が今も健在で、視力が悪いことを除けば鼻も口も耳もちゃんと機能しているぼくにとっては、こういった肉体的状況がどんなものかうかがい知ることはできない。それ以上に自身の夢が一瞬にして泡に消えてしまった精神的絶望感を考えると、自分のことではなく、このニュースを知るまで名前さえ知らなかった選手のことではあるけれど、胸が痛くなってしまう。しかもゴンザレス選手は現在24歳。まだまだ人生始まったばかりで、様々な幸福が訪れるはずやった。それが今回の一瞬の出来事によって、幸福も幸福じゃ思えなくなってしまうようになってしまう。なんだかんだと書いたところで、ぼくにはどうすることもできない。ぼくの胸が痛くなったところで、それが彼の胸の痛みと同じなはずがない。事故に巻き込まれたのは彼であり、彼の胸の痛みを分かる術をぼくは持ち合わせていない。結局のところ、一番辛いのは当事者である彼であり、左腕を失った体と生きていかなければならないのも彼である。ぼくが何を言ったところで、彼の胸の痛みを無くすことも出来なければ、和らげることさえも出来ない。無意味なこととは分かってるけど、陳腐であることも分かってるけど、それでも言いたい。「頑張れーーつ!!」ほな、また。