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2020.01.31
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カテゴリ:西暦535年の大噴火

古代アメリカ文明にかかわる有名な偽史の捏造の実例を挙げましょう。
20世紀に、F・A・ミッチェル・ヘッジスというイギリス人冒険家がいました。
​​彼は1927年に中南米にベリーズという国の遺跡から、水晶でできたドクロ(「ヘッジス・スカル」と呼ばれています)を発見したと、1940年代後半に発表しました(どーでもいい脱線ですが、昔私は「大航海時代」というゲームが好きでよくプレイしていましたが、このゲームでは、南米やメキシコ辺りを探索して発見できる宝物でしたねぇ)。​​
ヘッジス・スカルは非常に成功にできた水晶ドクロで、古代アメリカ文明では、人間を生贄として、神に捧げる習慣があったことから、それらと関連付けられて歴史関係の本で紹介されたこともありましたが、実際には、19世紀後半から20世紀後半にかけて、ドイツで作成されたものでした。宝石商が宣伝のために作成したと言われています。
​​それを購入したミッチェルが(ロンドンの美術商から、1943年に400ポンドで購入したことを証明する彼のサインの入った領収書も見つかっています)、「ベリーズの遺跡から発見した」と、センセーショナルに発表したのが、事の真相でした(さらに核心的なことを言うと、1926年にベリーズからイギリスに帰国していて、1927年にベリーズには一度も行っていませんでした)。​​
​どうやら彼は、売名とスポンサー集め(探検はお金がかかります)のために、話を作ったようです。​
​​しかし晩年、ミッチェルは罪悪感を覚えたのか、嘘の発覚を恐れたのか(彼と一緒に1926年にベリーズに行った仲間たちからも、批判や疑問が出ていました)、ドクロの事に一切触れなくなり、自分の回顧録からもその話を削除して1959年に世を去りましたが、彼の死後、養女のアンナ(「アナ」としている本もあります)が、「養父ではなく、自分が遺跡で見つけた」と主張し始めました。​​
​ちなみに彼女がベリーズに入国した記録はなく、本人はそのことを問われると、「トランクの中に入って入国した(楽器ケースではありませんでした(時事ネタ)。発見されたとされる1927年、アンナは17歳で、彼女は結構大柄でな体格でしたので、彼女が入れるサイズのトランクなんてあったのか等、ツッコミどころはいくつもあります)」等、めちゃくちゃな発言を残しています。​
​アンナは、「現在の科学技術でも製造不可能」「不思議なパワーを持っている」と盛んに宣伝して、イギリスやアメリカ中をめぐって講演して回りました(もちろんお金をとって)
その宣伝活動が実を結び、今でもオカルトマニアの中には、ヘッジス・スカルの「神秘のパワー」を信仰している人は、少なからずいるようです。​

​さて、ヘッジス・スカルが古代アメリカ文明の遺物なら、ドクロはモンゴロイド系の初期アメリカ人(「ネイティブアメリカン」ともいいます)の特徴を備えているはずです。​
​​しかし2008年に、アメリカ・スミソニアン博物館が徹底的に調査した結果(これは前年にアンナが亡くなり、遺族が本当にアンナが言っていた事が正しいのか確かめようと調査を依頼しました。1980年代の調査以降、彼女はドクロを調査されることを拒むようになっていました)、骨格の特徴から、20~40台の白人女性の顔と分析され、複顔も成功しました(ちなみアンナは、「専門家に調査を依頼したところ、初期アメリカ人の特徴を持った男性の顔で、工具の跡などは一切ない」と主張していました)。​​
さらに「現代科学では複製不可能」なはずの複製も成功しました。
​また電子顕微鏡を使った検査では、19世紀に実用化したダイヤモンド研磨剤とドリルの跡も確認され(実は1980年代の調査時に、この痕跡は発見されていましたが、彼女とその支持団体から、黙殺されていました)、ヘッジス・スカルが、古代アメリカ文明の遺物でないことが証明されました。
​なぜこんな捏造を多くの人が信じたのかというと(信じた中には、中学時代の私もいます・汗)、遺跡・遺物を説明する文献史料が存在しなかったからです。​
文献史料があれば、古代アメリカで、そもそも水晶度ドクロを製造する技術も文化もなかったことが、すぐにわかったでしょう。アンナの養父ミッチェルも、こんな話を作ったりしなかったかもしれません。
つまり遺跡・遺物があったとして、それがなんであるかを裏付ける史料があって、初めて何かが特定されるのです。どちらか一方だけなのは、やはり不完全になってしまうのです。
​世に中には、オーパーツ(「場違いな工芸品」という意味で、発掘場所の時代や文化にそぐわない遺物です。わかりやすく言えば、石器時代の遺跡から、スマホやパソコンが出てきたら、大騒ぎになるでしょう。そういう感じです)や、謎の遺跡といったものが話題になることがありますが、それらのほとんどが、文献記録がないために、誰が何の目的で作ったかわからない事から、勘違いされてしまっているものがほとんどです。​

そして逆の事例、歴史史料の記録から、古代の遺跡などが証明されたケースも存在します。
​これは中国の話ですが、前漢時代の歴史家で司馬遷(紀元前145?135~紀元前87?86年)という人物がいます。​
彼の書いた名著に『史記』があります。私は中学時代、父鳥から、「中国の歴史に興味があるなら、『史記』は絶対読んでおけ」と言われて買って読み、それがハマって、歴史を本格的に勉強するきっかけになっていきました。
​と、私の話はどうでもいいんですが、この『史記』には、殷(紀元前17世紀~紀元前1024年)の記録が書かれていますが、20世紀初めまで、殷という王朝は架空・実在しないものと考えられていました。​
​​しかし河南省安陽市で遺跡が発見されて調査が行われた際、その遺跡が『史記』に出てくる殷の都の記述(都城の大きさ、道路の幅や長さ等)と、ほぼ一致していることが明らかになりました。​​
現在はこの遺跡は、
殷墟(殷の後期(紀元前14世紀ごろから滅亡まで)の都で、殷墟の意味は「殷の都跡」となります。ここが人の住む都市だったころは、「大邑商」と呼ばれていました)と名付けられています。
このことは、『史記』の記述の正確性の高さを物語るのと同時に、文献史料が、遺跡の正体を証明する重要な手がかりになっていることを示しています。
もし『史記』が、殷の時代のことを記録していなかったら、この遺跡が何という都市名だったか、歴史にどんな影響があったかを説明する手段がなかったことでしょう。
現代まで、名前も状況もわからぬ遺跡の一つとしてしか、認識されていないかもしれません。
このように、遺跡・遺物と、史料は、相互にお互いの存在を明らかにする車の両輪なのです。どちらも重要で、軽んじてはいけないのです。
・・・まぁ、歴史学者と考古学者の不仲は放っておいてね(苦笑)。

脱線しすぎました(汗)。話を元に戻します。
不明な点の多い古代アメリカ文明ですが、分かっている点をまとめると以下のようになります。
・マヤ文明を除き、文字が確認されていない​(前回も触れましたが、南米インカ帝国で「キープ」と呼ばれる紐を使った情報手段があり、広義にはこれも文字とされています。しかしこちらも解読不能です)​
・鉄器を持たなかった​(インカ帝国では、青銅器や金銀の高度な加工技術はもっていましたが、他のアメリカ文明では、ほぼ石器時代のままでした)​
・車輪や通貨がなかった(​荷物を運ぶ家畜はいましたが、荷車や馬車は発達しませんでした。また通貨がないので、経済は物々交換でした)​
​・天文学が高度に発達しており(地球の公転周期が365.25日であることを知っていました)、厳密な時間管理をもとにした都市文明を持っていた​
・各地域が孤立・独立した文化圏を築いており、交流が少なかった
という感じです。

いつも通りの長ーい前置きでした。
​次回から本題、メソアメリカ(現在のメキシコ・グァテマラ・ベリーズ等)にあった古代文明テオティワカンから触れてみたいと思います。​
・・・気長にお待ちください(汗)。





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Last updated  2020.02.01 14:23:51
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