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2009.08.22
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カテゴリ:大正期・私小説

  『子を貸し屋』宇野浩二(新潮文庫)

 そもそも僕は、文学史の本を読むのが結構好きで、日本文学史以外にも、アメリカ文学史の本、イギリス文学史の本、フランス文学史の本などを、かつて楽しみつつ読んだ事があります。

 えー、宇野浩二です。
 もちろん私は初めて読む作家なんですが、以前から文学史の本を読んでいたせいで、なんとなく「美味しい匂いがする作家」という「アタリ」を付けておりました。
 そしてその「アタリ」は、きっちり当たりましたねー。
 とっても面白かったです。ただそれだけではなしに、幾つか考えてしまう事もありました。

 この本には、やや長さのまちまちな4つの短編小説が入っています。
 文学史的に言って、相対的に有名な小説は総題にもなっている『子を貸し屋』でありましょう。作品のバランス・まとまりも、とてもいいと思いました。

 ただ、「特徴的」という事で言うと、『あの頃の事』という短編が、とっーーーーってもとっても、「特徴的」であります。
 そのあたりのことをちょっと、考えてみたいと思います。

 この短編集のポイントは、以下の2点だと思います。

  (1)強烈な貧乏話
  (2)極めて特徴的な文体


 この順番に考えていこうとは思いますが、ただ、(2)の「特徴的な文体」について、この作品ではその程度が、少し異常なほどであります。詳しくは後述しますが、とっても気になりますので最初にちょっとだけ触れておきます。

 しかし、これだけ異常な文体を「発見」した時、小説家とは一体どんな事を考えるものなんでしょうねー。
 「やったー。おれのオリジナルだーっ。」
って、思うんでしょうか。うーん。

 クラシック音楽の指揮者に、もう亡くなられた方ですが、セルジュ・チェリビダッケという方がいました。
 フルトヴェングラー亡き後のベルリンフィルの主席指揮者の席を、カラヤンにかっさらわれた事で有名な人です。

 ちょっとだけ、ちょっとだけ、寄り道。
 この辺のいきさつは、以下の本に詳しく書いてあります。少し推理小説仕立てで、どこまで真実なのか分かりませんが、とても面白い本です。

  『カラヤンとフルトヴェングラー』中川右介(幻冬社新書)

 さてそのチェリビダッケという指揮者が、晩年、まー、何というかー、今までの人生の「怨念」を込めたように、異常に遅いテンポで幾つかの交響曲を振っています。
 ブルックナーとベートーヴェンが有名ですが、時にベートーヴェンは、この異様なまでの遅さに、聴いていてなんだか鳥肌が立つようです。

 僕は宇野浩二のこの小説を読んで、思わずチェリビダッケのベートーヴェンの7番を思い出してしまいました。
 (ベートーヴェンの交響曲7番といえば、少し前にテレビドラマに用いられた事で流行った、カルロス・クライバーの7番が有名ですが、あれと比べると、全く別の曲かと思ってしまうほど、チェリビダッケのテンポはまるで違います。)

 しかし、落ち着いて考えれば、当然ながら、両者にはいくつもの違いがあります。
 その最大のものは、チェリビダッケの場合は、或る意味すでに名を成し功を遂げた後の「新展開」ですが、宇野浩二は、まだ小説家デビューしたての頃の「発見」です。

 そんなデビューしたての段階で、これだけ強烈な個性の文体を書くと言う事のうちには、きっといろんな考えが、筆者の中にあったろうにと思うのですが、その辺をちょっと順を追って考えていきたいと思います。

 以下、次回に。


 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓

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Last updated  2009.08.22 07:46:36
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