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カテゴリ:昭和期・第三の新人
『幽霊』北杜夫(新潮文庫) 上記本の報告の第二回目であります。 前回、斉藤由香のエッセイ→『楡家の人々』という流れで読書をしたというところまで報告しました。(ついでに『楡家の人々』には、とても感動したということも。) で、さらに私の読書は冒頭の『幽霊』へと繋がるのですが、それは、もはや何の本に書いてあったか失念してしまったのですが、北杜夫のエッセイの中に、友人から言われた言葉として書かれていた文によります。こんな科白だったと思います。 「あなたは、『幽霊』と『楡家の人々』を書いた段階で死んでいたら、天才と呼ばれたのに、残念だ。」 この友人の言葉に対して北杜夫は、自分でもそう思う、実に残念だと、まー、嘆くわけですね。(このあたり、いかにも、どくとるマンボウ氏ですよね。) それを思い出しまして、前回の拙ブログの冒頭にも書きましたが、いつどこに行っても一定のスペースを誇っているブックオフの北杜夫棚へ行きますと、『幽霊』があるんですねー、これが。まー、たまたまでしょうが。 で、今回の読書報告に至ったわけです。 一読。この小説も間違いない上質な「純文学」であります。 筆者の処女長編だそうですが(短編は既に発表があります)、すべての優れた表現者の処女作がそうであるように、この小説にも、実に豊かな創作物の萌芽があります。 副題に「或る幼年と青春の物語」とありますが、前半が主に「幼年期」、後半が(どんでん返しがあるのですが)「青年期」のお話ですかね。 僕は、前半の方が好みでした。 その前半部に、「幼児も決してちいさい子供ではない」と書いてあるのですが、僕はこの「幼児」と「ちいさい子供」の差異が今ひとつわからないのですが、描かれている内容は要するに「少年期」のもののように思います(違っているのかな)。 少年の成長を扱う小説というのは、過去、いろいろとあると思いますが(例えば『あすなろ物語』とか『次郎物語』とか)、この本には、「少年期」特有の感情を表現するキーワード、例えば、 死・残酷・微熱・まどろみ・皮膚感覚 といったものが、実に豊かに書かれてあります。 そしてそれが、かなりマニアックな「昆虫」の知識と描写を伴って、実にこってりと書かれてあります。 この一種マニアックな「こだわり」というのは、どういうものなんでしょうかね。 マニアックなこだわりといえば、すぐに村上春樹の小説に見られる「音楽」へのこだわりが浮かぶのですが、これは単なる「意匠」なんでしょうか。 かつて織田作之助が、自らの小説の中にたくさんの数字を書き込むことについて、もはや小説の中のあらゆる描写は信じられず、信じられるのは数字のみだ、と喝破したことがありました。 (村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』にも、数字に異常にこだわったことのある主人公が描かれていましたっけ。) そうして『幽霊』における「昆虫」の描写にも、間違いなく織田作の感じ方に近いものがあるように思います。 そんな「濃厚なけだるさ」とでも言えそうな感覚が一杯に詰まった作品であります。 一方後半部は、青年期の主人公が、さらに新しい生活に入っていこうとするところで作品を終えています。 ここにはまた、「若さ」というものが内包する普遍的な不幸と、個人の特有な不幸とを重ね合わせながら、ほとんど小説の「原石」の様なテーマが、一杯に散りばめられた後半部でした。 さて、これほどの「豊饒」なものを持ち合わせた筆者は、その後どうなっていくのでしょうか。 僕がよく知らないだけで、すでに十分な「業績」をお残しなのかも知れません。北杜夫の小説世界には、そんな稔り多いフィールドが広がっているのかも知れません。 しかし、この拙ブログに何度か書いたフレーズですが、つくづく生きている作家というものは大変なものでありますね。 お人ごとながら、頑張ってくださいね、と小さな声で、僕は呟いたのでありました。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 /font> にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.09.05 06:23:43
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