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2021.11.27
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  『懐中時計』小沼丹(講談社文芸文庫)

 講談社文芸文庫には、なかなかなんと言いますか興味深いというかビミョウというか、そんな感じのする小説作品がいっぱいありますね。

 そもそも純文学系の文庫と言えば新潮文庫と、まー、物知らずの私が思っていただけかもしれませんが、とにかくそんな風にかつて思っていました。
 しかしそれも、今となっては、本当に「今は昔」という感じで、新聞公告の新潮文庫の今月の新刊などを見ても、(もちろん嗜好に大いにバイアスのかかった)私としては、心惹かれる文庫新刊が、あまりありません。うーん、少し寂しい。

 ところで、講談社文庫というのも、もうかなり昔からあるんでしょうね。
 ただ感覚的にはやはり、新潮文庫や角川文庫に出遅れたというイメージで、私の中には純文学系中心の文庫という感じはありませんでした。

 そんな講談社が出したさらに後発の文芸文庫は、これはまがうことなく純文学系の文庫でありました。しかも、純文学系文庫本の「本家」的な岩波文庫(緑帯)とも、微妙にラインナップが異なっていました。

 詳しいことは知りませんが、版権の関係もきっとあるのでしょうね。
 しかし私のような素人目で見ていると、文芸文庫の諸作品は、「古典」というにはちょっと違うだろうが、でも昭和期の純文学小説の名品たち、という感じであります。

 ただ、ただ、わたくしとしましては一点、惜しいかな、なかなかにこの文庫、お値段がお高い。それで、本屋さんに行っても講談社文芸文庫の棚はざっと見渡しはしますが、なかなか購入するに至ることがありません。

 だから(といいますか、なんと言いますか)、例の古本屋さんで最廉価で売ってあったりしますと、筆者や作品についての好みや知識にかかわらず、まー、とりあえず買っておくか的に購入した講談社文芸文庫が、えらいもので、家に十数冊あります。

 しかしまた、これもある意味えらいもので、そんな風に読書意欲薄く買った本は、やはりあまり読んでません。

 実は今回の報告書籍もそんな一冊でした。
 そもそも筆者の小沼丹という人のことを、まるで知りません。プロレタリア文学か何かの人じゃないかしらん、みたいな誤ったイメージを持っていたように思います。

 それをこの度取り敢えず一冊短編集を読み終えて、私は自らの無知蒙昧さに愕然と致しました。
 そんなことはわかったつもりでいましたが、世の中には私の知らない素晴らしい日本文学作家が、まだまだきっと星の数ほどもいることを納得しました。

 ということで、小沼丹の短編集です。
 講談社文芸文庫のいいのは、解説が充実しているというところでもあります。
 それで私は、筆者が、井伏鱒二系の方だということを知りました。そして、なーるほど、と納得しました。

 井伏の弟子と言えば、圧倒的にまず太宰治の方向に行ってしまうのですが、作風で言えば、井伏鱒二の保守本流はこの小沼丹でしょう。
 まさに井伏流「関節外し」小説の魅力であります。

 「関節外し」と今書きましたが、井伏作品は、それを高く評価するにしてもその評価の説明が実に難しくあります。
 それはまるで詩歌のように、表現されてあるものをそのまま丸呑みして鑑賞するしかないような作品ですが、この小沼作品も、間違いなくその作風を引き継いでいます。

 例えば、こんな部分はどうでしょう。

​ 理由は知らないが、上田友男は前から懐中時計を使っていた。時間を見るにも、ちらりと腕時計を覗くのと違って、徐にポケットから取出すと何となく一呼吸置く感じがある。だから、上田友男が懐中時計を取出したりすると、それは見る人に彼が悠揚迫らぬ人物であると錯覚させるのに充分である。​

 本書の解説の一部を秋山駿が書いています。
 小説には、批評と「仲の悪い」小説があって、そんな小説は、「いくら掬っても、細部が網から逃げてしまう小説のことだ」とあって、続いてこう書かれています。

​ 簡単に考えれば、いくらか批評の言葉が怠慢だったのである。ことに日本の戦後の文学批評は、社会的あるいは思想的に意味のある細部を追い掛けるのに急で、小沼さんの魅力を解明するふうには、心を砕いてこなかったのである。​

 本書には11の短編小説が収録されていますが、そのほとんどが、秋山駿が書いている通り、読めば誰にでも感じられる魅力を十分にたたえていながら、それを言葉にして説明するにはとても難しい、言葉がするりするりと抜け落ちていくような珠玉作たちです。

 むしろ、その感じを伝えるには、取り敢えず「類例」を列挙するのがいいのかもしれません。
 それは、まず、井伏鱒二の短編群。
 あるいは、内田百閒の作品たち。
 さらにもう一つ加えるなら、つげ義春の漫画を加えさせてほしいと私は思います。

 11ある収録作は、3つの作品群に分けることができそうですが、私の素朴な読後感で、それぞれのグループで一番いいと思ったものを最後に挙げてみます。

 「大寺さん」グループでは、やはり冒頭の『黒と白の猫』。
 サスペンスグループ3作の中では、『断崖』が一番よかったです。
 そして、「大寺さん」後の作品グループでは、『自動車旅行』かなあ、『影絵』も捨てがたくありますが。

 ということで、思いがけない収穫の講談社文芸文庫の読書でした。
 上記に記したように、まだ未読の、筆者や作品についてほとんど知識のない同文庫本が家に数十冊あります。
 さて、次はどれを手に取りましょうか。


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Last updated  2021.11.27 13:29:55
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