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2010.01.19
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  『無憂華夫人』菊池寛(文春文庫)

 この本の解説を評論家の猪瀬直樹が書いていますが、そこにこんな事が書かれてありました。

 『真珠夫人』の人気が沸騰してから菊池寛は「小説家たらんとする青年に与う」という短いエッセイで「二十五歳未満の者、小説を書くべからず」とか「小説を書くのに、一番大切なのは、生活をしたということである」と述べた。さらに「本当の小説家になるのに、一番困る人は、二十二、三歳で、相当にうまい短編が書ける人だ」とつづけるが、誰を指しているか明々白々であろう。

 なるほどねー。
 「友」と書いて「ライバル」と、「敵」と書いて「しんゆう」と読ませるわけですね。
 芥川龍之介が自殺した時の、代表弔辞を読んだ菊池寛の文章は、まさに名品でありますけれども。

 さて、上記の小説の報告ですが、ちょっと迷うというか、困っているんですね。
 何故かと言いますと、そもそもは、本ブログで取り上げようかなという気持ちもあって読み出したんですけれどね。
 でも読み出す前にちょっと「不安」はあったんですよ。文春文庫ですし。

 いえ、文春文庫を差別しているわけではありません。
 文芸春秋社は芥川賞・直木賞という文壇最大の賞を主催していますし、何と言っても、菊池寛はその創業者であります。

 でもね、今まで本ブログで報告しました作品の傾向を読んでいただきますと、これは、差別するとかじゃなくて、なるほど、少し違うかな、とおわかりいただけると思います。
 本ブログで取り上げている小説は、(別に調査していませんが)新潮文庫と岩波文庫がおそらく圧倒的多数でありましょう。

 (そもそも菊池寛が立ち上げた文芸春秋社というのは、岩波知識人文化に対抗して創設されたと聞きます。)

 さてその菊池寛の上記小説ですが、大阪毎日・東京日日新聞に連載された『真珠夫人』が大ヒットしまして、第二、第三の『真珠夫人』を書いてくれと言う依頼が引きも切らず来る中、それらの一作品として『講談倶楽部』に連載されたものであります。

 そもそも「大衆小説」なんですよね。
 内容は、簡単に言いますと、明治の華族版ロミオとジュリエットのお話、ってところですかね。ただ、このお話にはモデルがあります。
 モデルとなった女性は、九条武子という人です。

 ウィキペディアで調べたら、えらいモンですねー、載っていました。(というか、この方はかなりの著名人ですね。)
 西本願寺のお寺さんの娘で、「大正三美人」の一人だそうです。のちに京都女子大を作りました。
 なるほどそんな人ですか。写真まで載っていました。こんな人です。(って、写真を載せようと思ったのですが、やっぱりやんぺ。私は往生際の悪い人間であります。)

 写真を見ました。なるほど、美人ですね。まー、そんな人がモデルの、ロミ・ジュリ話です。途中まではわりと面白かったんですがね。しかし、いくら何でも、終わり方がひどすぎると思います。

 今ではたぶんそんなでもないと思うんですが(最近漫画週刊誌を全く読んでいませんので、よく知らないんですが)、少し以前の、週刊誌の連載漫画の終わり方と全く一緒です。
 人気低迷のせいですかね。全くストーリー的な事は関係なく、いきなり終了です。

 連載していた雑誌が『講談倶楽部』ですから、仕方がないのかも知れませんが、作者はどんなつもりでしょうね。人気低迷なればやむなし、でそれで終わりですかね。
 (ただ、この小説の連載中止理由は、たぶん「人気低迷」以外のものでありそうですが。)

 しかし、中途半端に放り出された読者のフラストレーションは、いったい誰が責任を取ってくれるんですかね。
 マスコミの未成熟な時代、というより、読者に対する視点なんて、あまり誰も考えなかった時代なんでしょうかね。

 結局、独立した作品としては纏まっていない小説であります。
 だから私は、本ブログに取り上げるかどうか迷っていたんですが、でも、もう書いちゃいました。
 こういう表現技法は、小説で時々見られるレトリックですね。
 小説の名人・丸谷才一は、この技法をさらに進めて、「見せ消ち」なんてテクニック(そもそもの出典は『古今集』の「墨消歌」でしょう)を使った小説を書いていましたね。

 今回はそういうわけで、報告の小説に習って、「尻切れトンボ」ということで。
 そう、ちょうどこんな感じの終わり方でした。はい。

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Last updated  2010.01.19 06:35:51
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七詩@ Re:父親という苦悩(06/04) 親子二代の小説家父子というのは思いつき…
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