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2010.05.11
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  『歯車』芥川龍之介(岩波文庫)

 私事ではありますが、本ブログの第一回に芥川の『河童』と『歯車』を取り上げました。
 しかしその時は、一冊の本という単位の取り上げ方ではなく、一作品(あるいは二作品)という単位の取り上げ方でありました。
 本棚を見てみると、あの時の本は、旺文社文庫の芥川作品でした。

 というつまんないことから書き出しましたが、今回冒頭の岩波文庫で以下の三作を読みました。

   『玄鶴山房』・『歯車』・『或阿呆の一生』

 第一回目のブログで僕は『歯車』を取り上げて、こんな事を書きました。

 解説文によると、このタイトルは、発表前に(この作品の発表は芥川の死後ですがー)、原稿を見せてもらった佐藤春夫がアドバイスをしてつけたそうですが、うーん、なんというか、感心しましたね。
 この作品は、幻覚と幻聴が始終おそってきて、死にたい死にたいと考えている人物が主人公ですよ。そんな作品を読んだとき、一番に言うべきなのは
 「うーん、タイトル、変えた方がいいねー」
じゃなくてー、入院を勧めることでしょうに。おかげで芥川君は死んじゃったじゃないか。
 うーん、難儀な人達です。


 この思いは全く今回の読後感も同じですね。
 この作品で芥川の自殺は、ほぼ宣言されているんじゃないですかね。
 作品の発表そのものは芥川の死後ですから、一般読者はどうしようもなかったでしょうが、少なくとも佐藤春夫はもう少し親身になって、家族に緊急度の高いアドバイスなりをするべきじゃなかったかと思います。

 この作品は、そんな、「壊れかけた理性」を描いています。

 僕は読後二つのことを思ったのですが、まず一つ目はこんなことです。
 今書きました「壊れかけた理性」ですが、例えばこんな風に描かれているところ。

 僕はそこを歩いてゐるうちにふと松林を思ひ出した。のみならず僕の視野のうちに妙なものを見つけ出した。妙なものを? --と云ふのは絶えずまはつてゐる半透明の歯車だつた。僕はかう言ふ経験を前にも何度か持ち合せてゐた。歯車は次第に数を殖やし、半ば僕の視野を塞いでしまふ、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失せる代りに今度は頭痛を感じはじめる、--それはいつも同じことだつた。(『歯車』)

 この歯車の幻視ですが、続いてこの文章はどうでしょうか。

 そのとき、にわかに伊木一郎は躯に異変を覚えた。立暗みに似た気分だが、ふしぎに病的な感じではない。
 彼は部屋の隅の椅子に腰をおろした。異変はつづいており、躯の奥底でかすかな海鳴りに似た音がひびき、それがしだいに大きくなり、広い幅をもった濃密な気分が轟々と音を発して彼の躯の中を縦に通り過ぎた。膨らみ切ったたくさんの細胞が、一斉に弾け散ったような音がそれに伴った。


 よく似ていますよね。でもこれは芥川ではありません。
 この文章は、吉行淳之介の『砂の上の植物群』から取ってきました。

 つまり、この程度の「幻視」を書いているうちは、作家の理性はまだまだ大丈夫なわけですね。
 でも、上記の『歯車』には、ついで主人公がホテルの食堂でステーキを食べていると、「小さい蛆が一匹静かに肉の縁に蠢いてゐた。」とあります。
 これはもう、かなりアブナイですね。

 そしてさらに、翌朝、ホテルで目覚めるとベッドの下にスリッパが片方しかないと書かれています。そこでボーイを呼んで、スリッパを捜させるとバス・ルームから出てきます。
 このエピソードも、かなり危ういですね。

 うーん、やはり、佐藤春夫は、タイトルのアドバイスをしている場合ではなかったじゃないですかね。

 さらに、次回に続きます。


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Last updated  2010.05.11 06:38:29
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