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カテゴリ:大正期・新現実主義
『侏儒の言葉』芥川龍之介(岩波文庫) 岩波文庫の芥川龍之介の巻の解説文は、一貫して中村真一郎であります。さっき、他の芥川の岩波文庫を幾つか見てみたのですが、私の持っている数冊は総て中村真一郎の解説でした。 なぜなんでしょうねぇ。 文壇内の細かい人間関係や力関係など何も知りませんので、誰もが知ってそうな範囲の文学史的知識で類推しますと、これは、 「芥川龍之介---堀辰雄---中村真一郎」 というラインですか。 まー、緩慢な感じの師匠・弟子筋ですかね。 でもねぇ。よく考えてみるまでもなく、そしてもちろん中村真一郎は文芸評論家としても優れた実績を持っているとはいえ、小説家としての資質ということでいうならば、芥川のものとは、ほとんど「水と油」でしょうに。 芥川的な小説のあり方を是とするならば、中村真一郎的な小説のあり方は非になっちゃうような隔たりが、両者の間にはあるとわたくし愚考するんですが、どうでしょうか。 第一、作品の長さが全ーーーーー然、違うではありませんか。 さてそんな中村真一郎の、本書の解説文が、ヒジョーに「苛烈」であります。 何でそこまで書くかーと、思わず読んでいて怯んでしまうくらい強烈です。最後に少しだけ「お愛想」のように誉めていますが、ほぼ全編に亘って「切って棄てて」います。こんな感じ。 彼の小説の中の思想と、箴言集の中の思想とを比べてみるといい。それは思想の形においても鋭さにおいても、少しも優劣はないのである。ただ小説よりも、より短いアフォリズムの形の中に、より直接的な裸の姿で、彼の思想が定着されているだけの相違である。――すなわち、彼の思想は箴言的であったというわけだ。 (略) そして芥川の思想は、実に花火のように瞬間的な落想なのである。『侏儒の言葉』のどの一行でも任意に読んでみるがいい。すべて、社会の常識に対する、激しい笑いか憎しみかをこめた逆説である。すなわち、芥川の思想とは、要するに社会の因習と、その因習にとらえられた人間の愚かさに対する、衝動的な反発にほかならないのである。 由来、逆説的態度というものは、シニカルな人生観を作りだすものであり、そして、この否定のための否定の精神からは、問題の解決と、解決のための行動の原理とは生まれて来ない。 どうです。 これだけ全否定的に否定して、そのあとちょっとだけ「芥川龍之介は明治以後の数少ない名文家の一人である。」なんて誉められても(実際にこういう順で書かれています)、 ここまで傷口に塩塗るようなまねをするかーと、思ってしまうでしょ。 うーん、なかなか、難しいものですなー。(何が?) さて私も、本書については、昔断片的に読んでいた記憶があります。 この度全編を読んでみて、あー覚えていると言うのもありましたし、そーか、このエピグラムは芥川のものだったのかと改めて知ったのもありました。 例えば、前者の例は、 神 あらゆる神の属性中、最も神のために同情するのは神には自殺のできないことである。 こんな箴言ですね。一方後者の例は、 忍従 忍従はロマンティックな卑屈である。 こんな感じ。しかし中村真一郎にそういわれてみれば、なるほどと納得した後、「で? だから、なんなの?」と呟いてしまえば、それで終わってしまうような所がありますね。 でも今回思ったのは、そんなシニカルなのばかりではなく、思わず口に出して呟いた言葉そのままというような感じの作品もあると言うことでした。例えばこんなの。 文章 文章の中にある言葉は辞書の中にある時よりも美しさを加えていなければならぬ。 ねっ。素直な優しい文章でしょ。 ともあれ、芥川はこの作品を最晩年、自殺する年まで五年間書き続けました。 後世、中村真一郎のように書かれる懼れがあるのではないかと感じるに足る知力を十分備えつつ、彼がこの形式の文章を書き続けたことに、彼の嗜好のナイーブな姿が垣間見えるようで、最近芥川ファンになった私としては、またひとつ彼の魅力を知ったような気がしました。 よろしければ、こちら別館でお休み下さい。↓ 俳句徒然自句自解+目指せ文化的週末 にほんブログ村 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.06.25 07:36:43
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