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2011.10.19
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カテゴリ:明治~・劇作家

  『戦争で死ねなかったお父さんのために』つかこうへい(新潮文庫)

 テレビに、『ひらけポンキッキ』という幼児番組がありましたが、今でもあるのかな。なかなか楽しい番組で、私も小さかった息子と娘と一緒によく見ていました。
 番組内で歌われていた曲もなかなかおしゃれで、それをまとめたカセットテープを買って(そのころはまだCDじゃなかったのかな)、車で流して子供達と一緒に歌っていました。

 楽しい、かつ出来の良いたくさんの曲がありましたが、その中の『かまっておんど』という大竹しのぶさんの歌っていた曲が、私はとても好きでした。
 だいたいこんなサビの部分を持つ曲だったように思います。

   ♪かまってかまっていっぱいかまって
    かまってかまってかまってくれなきゃ、
    グレちゃうぞ♪


 大竹しのぶさんの、あの少し甘えたような声と歌いぶりが、何ともチャーミングでありました。いやー、なつかしい。

 なぜこんな話から始まっているかと言いますと、この曲の作詞者がつかこうへいなんですね。それを知った時私は、なるほどこの歌詞の、大人と子供が混ざり合ったような不思議な魅力は、つかこうへい独特の感性ならではのものだなとすぐに納得できました。

 さて『かまっておんど』から、さらに15年くらい(かな?)過去に遡った京都の学生街の喫茶店の話です。
 友人と連んで、とにかく毎日のように入った喫茶店の中に貼られてありました、あの和田誠の描く「くわえ煙草の伝兵衛」のポスター。
 「衝撃的」と冠される『熱海殺人事件』のポスターですよねー。

 演劇青年なるものが、世間にはいらっしゃるようで。
 しかし私は文学好きではありましたが、10代後半から20代にかけても、一度も演劇青年であったことはなく(土曜日午後の『吉本新喜劇劇場』も、新喜劇よりは漫才・落語が好きで)、ただ安部公房を読み始めてから、なるほど戯曲というものも面白い物だと考えるようになりました。

 そして高校時代、何となくその頃はやりの「アン・グラ芝居」の書き手、寺山修司とか唐十郎とかの戯曲を手に取ってみましたが、そもそもこの手の芝居は、戯曲を手に取っているようじゃダメだったんですよね、直接劇場に行かなければ。
 彼らの芝居の魅力は、本来戯曲にはなかったんですね。
 そんなにたくさん読んだわけではありませんが、そのころの私にはほぼ何が書かれてあるのか判りませんでした。

 そんなわけで私は、現代小劇場のお芝居は、戯曲を読むだけではちっとも面白くないものだという「刷り込み」を、青春時代前期にされてしまいました。
 だから、つかこうへいの戯曲を読んだ時は、やはり「衝撃的」でしたね。
 とにかく、おもしろかったですから。

 私は、何度も読み返し、他の作品も読んで、遅まきながらつかこうへいの舞台も見て、そしてさらに、つかこうへいが影響を受けたと告白している別役実にも移っていって読みました。
 この劇作家もまたとっても面白かったです。特に別役実の「づくし」シリーズの文体と発想法には、強烈な影響を受けました。(確か、この独創的文章の正体は何かと、分析し文章にした記憶があります。)

 ……さてあれから、30年近くが経っていますか。
 今回本棚の奥にあった冒頭の文庫本を出してきて、久し振りにまとめて読んでみました。
 やはり、というのか、しかし、というのか、青春期に読んでいた時の高揚感はほぼありませんでした。高揚感の記憶があるだけでした。

 ただ改めて、少々第三者的に読んでみますと、この一連の芝居台本が全編にわたって、日本語の音韻の巧みさを強く押し出した、実に豊穣な語彙を含んでいることに気づきます。そして突然語られる九州弁の醸し出す豊かな詩情も。

部長 (略)
   警視総監殿、日本は今大きく病んでおります。この街々の喧噪は一体
   何でありましょう。この悲劇の如何ともしがたい健康すぎる生き延び
   ようは、一体何なのでありましょう。姑息な市民の生き延びように、
   不必要な要素を取り去るために、法律を作動させ犯人を仕立て上げる
   私は自らの責務を憂えております。時代は薄く夕暮れをひいて、闇の
   絶えた街頭に、しのぶ術なくたたずんでおります。明日を味わうよう
   にして祈っております。はっ、私ですか、ご安心あれ総監殿。私はい
   ま煙草に火をつけようとしたところであります。

     暗転、電話の発信音。

   つまり――

     声、はてしなく。


 『熱海殺人事件』幕切れのこの長台詞は、本来この4倍ほどの長さを持ち、かつ再演以降は切り取られた部分であるようですが、そんな個所にも、つか氏の言葉の装飾を主眼とした言語感覚の確かさを感じることができそうに思いました。

 しかし、若い頃に強烈な影響を受けた(それも流行病のように急激に受けた)作家なり作品なりというものは、その後一定の年月が経っても、なかなか相対化のしにくいものでありますね。
 今回の報告で私は、そんなこともよく分かりました。


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Last updated  2011.10.19 06:19:21
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