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近代日本文学史メジャーのマイナー

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2020.05.16
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  『幕が上がる』平田オリザ(講談社文庫)

 私は全く知らなかったのですが、この小説が出版された時は、読書界で少し話題になったそうですね。今回初めて読んでみまして、一応、なるほどさもありなん、とは思いました。

 えー、演劇界エリートの平田オリザ氏の小説作品です。
 しかし、冒頭からいきなり申し訳ない話を始めますが、これは以前もどこかで書いた気がするのですが、小さな声で少し恥ずかしそうに、私は宮沢賢治がよくわかりません、と。

 なぜ小さな声で恥ずかしそうに言うかといえば、おそらく日本文学の世界では、宮沢賢治は「巨人」のような存在であるからです。

 例えば、私は西洋クラシック音楽が割と好きなのですが、誰の作った交響曲が好きですかと聞くとすれば、その質問は基本的には、「ベートーヴェンは置いておいて」という枕詞が付いているように私は思います。

 わたくし、ここは断言しますが(世の中に断言のできることのほぼない私ですが)、ベートーヴェンの交響曲が嫌いだというクラシック音楽ファンは、世界中に一人もいません。(たぶん。)

 それと同じとまではいわないとしても、近代日本文学界において、やはり宮沢賢治はビッグネームです。(特に演劇系の作家の賢治評価はかなり高い気がします。例えば、別役実、安部公房、そしてこの度の平田オリザもそうでしょう。)

 えっと、なぜ宮沢賢治の話が始まったのか、でありました。
 それは、本作は、クライマックスのところで描かれる作品中演劇が、「銀河鉄道の夜」のパロディで、そのストーリーを通じて小説が盛り上がっていくという話なんですね。

 ところが、そのポイントとなる「銀河鉄道の夜」の話が、何といいますか、わたくしは(一応、複数回読んだのですが)よくわからなくて(ナサケナイ)、そのまま本作のクライマックスにうまく付いていけないとなったのであります。
 しかし、さらに考えますに、あながちそればかりでもないのじゃないか、と。

 そもそも本小説は、高校演劇部の部員たちが全国大会を目指すという青春小説です。だから、対象となる主な読者は高校生(さらには演劇部の高校生)でありましょう。
 あ、この段階ですでに、私のようなオッサンは、無資格、想定外といいますか論外といいますか、相手にされないのであります。

 いえ、別にいじけて言っているのではないのですが、例えば本文庫のカバー裏表紙の紹介文には、「涙と爽快感を呼ぶ青春小説」と書いてあります。
 「涙」は、まー、個人差があるとしても、「爽快感」について、私は読後ほぼそれを感じなかったなあ、と。

 これはどういうことかと、わたくし、考えたのですね。
 爽快感がなく、その反対のようなこの少し「嫌」な感じは、いったいどこから来ているのだろうか。
 しばらく考えて、気が付きました。
 本書に登場する演劇部顧問の先生の描かれ方が、どうも納得がいかないのではあるまいか、と。

 でもこれもやはり、お呼びでないオッサン読者のゆえでありましょうか。
 つまり高校生の読者なら、主人公たちの演劇部員に自然に感情移入をしますが、オッサンは、登場している大人に、つい注目してしまうんですね。で、よくわからない、と。

 さらによく考えれば、そもそも高校生の熱血部活小説(実際に私がたくさん読んでいるのは熱血部活漫画ですが)での部活顧問の描かれ方というのは、なかなかビミョウな気がしませんか。それは、極端に影が薄かったり、ほぼ悪役だったり……。
 だから本書への私の違和感は、本書だけのものではないのかもしれません。

 しかしどうですか、本書を読んだ「大人」の方々。
 登場する二人の演劇部顧問(厳密にいえば三人ですが)のうち、女性の吉岡先生についての私の感想は、すでにある程度予想できると思います。(その予想通りに後述します。)
 でも私がまず言いたいのは、もう一人の男性の溝口先生の描かれ方です。
 実は彼の描かれ方も、よく読むとちょっと「嫌」な感じになります。

 たぶん、演劇に対して理解がない(センスがない)演劇部顧問は、全国にたくさんいるのだろうとは想像でき、そして、そんな顧問に対する高校生の感性の中に、シビアな「残酷性」があることもわかります。
 しかしこの設定と描かれ方には、作品自体に、演劇に関するセンスがないことに対する嘲笑感覚・侮蔑感があると感じられそうに思うのですが、わたくし、バイアス、掛かっているでしょうか。(だって演劇小説なんだから、演劇センスのない人物は、笑われキャラでしょう、って、……うーん、本当にそれでいいんでしょうか。)

 さて、一方、吉岡先生です。
 そもそもこんな美術の先生って、いるのでしょうかね。
 美術の先生の一番好きな「自己表現」は、美術を通じてのものではないのでしょうか。もちろん絶対にこんな美術の先生がいないとは言えません(あるいはベテランの先生になれば別かなとは思います)。
 しかしこれは、他教科の先生とはかなり違うと思います。

 吉岡先生は、大学から演劇を始めて、そこでハマったという設定(高校時代は帰宅部)です。
 しかし美術の先生ということなら大学は美大か美術学部で、美大進学を志望する高校生は、そもそも美術が命のような高校生でしょう。(しかしなぜ美術部じゃないの。)
 そんな高校生が、美大に入った後、新たに役者という形の自己表現を学生生活の第一義にして、そして美術制作もするという設定は、かなりリアリティに欠ける(特殊中の特殊の)ものではないでしょうか。(それは例えば、野球部指導が生きがいの経済学部出身の社会科の先生、というのとはかなり違いますよね。)

 そして吉岡先生は、新社会人として教育現場に着任わずか半年で教師を辞めます。
 彼女は、美術教師だからまず美術部の顧問を任され、演劇部は副顧問のようにしていたのがだんだん本気になっていく場面で、こんなことを演劇部員に言っています。

​ (略)だから、ブロック大会まで行くっていうのは、私のエゴみたいなもんで、でも、こんな素材を前にして、私が少しだけ手伝わせてもらったら、って言うか、これからは少しだけじゃなくて、手伝いでもなくて、本気で指導させて欲しいんだけど。いままでは、片手間でやっていてごめんなさい。本気でやらせてください、演劇部。​

 このセリフが、4月に赴任して3か月目、7月のものです。
 で、10月初旬に、今までと「格が違う感じ」の有名な演出家から、女優としての活動を強く求められ、教師を辞める返事をします。その時、演劇部は全国大会に行けるかどうかの県大会の直前でした。

 これは、いくら何でも、ひどすぎませんか。
 というより、私は、この展開(吉岡先生の性格設定)にかなり戸惑いました。
 吉岡先生が、演出をする主人公の女子高生に、こんなことを言う場面があります。

​ 「俳優はね、現金なものだから、自分をよく見せてくれる演出家は、そいつがどんないやな奴だとしても信頼するよ」​

 とりあえず何でもないセリフのように思えますが、たぶんこの延長上に、吉岡先生の性格設定があり、そしてそれを裏返すと、もう一人の顧問・溝口先生に対する侮蔑感がちらちらと見えるように思います。

 ……えー、ちょっと、嫌な展開になってきました。
 もう、このあたりで終わりますが、何といいますか、青春期をすでにはるか過去に送ったオッサンにとって、本書はなかなか巡り合わせの良くない読書だったのかな、と。
 ……うーん、ちょっと、なんとも言えません。はい。……。


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Last updated  2020.05.16 18:15:06
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